相談室日誌 連載551 生活困難なセルフネグレクト状態 制度の狭間の患者とのかかわり(秋田)
40代半ばのAさんは高度肥満と糖尿病があり、食事療養とリハビリ目的で入院になりました。Aさんは小学校高学年の時に両親を亡くし、親戚がいる当県に移り住みました。当初いっしょに暮らしていた兄は、Aさんが10代半ばの時に家を出たきり音信不通に。Aさんは定時制高校へ入学するも人間関係を理由に数カ月で自主退学。その後、アルバイトをしましたが長続きせず、親の遺産も底をつき、生活保護を利用していました。対人関係がうまく築けず引きこもり、過食嘔吐(おうと)をくり返し、精神科に通院していたものの、自己中断。生活は不規則で昼夜逆転し、体重が増え、動くことが困難になり、3分の2がゴミで埋め尽くされた自宅で生活していました。
保護課のケースワーカーと相談し、自宅を処分し、その費用でアパートを借りて引っ越す予定でいた最中の入院でした。入院時の所持金は数十円、通帳には数百円、月数万円の分割払いがあるなか、入院で保護費が減り、支払い困難に。さらにオムツや日用品代の支払いが増えてしまいました。
Aさんとともに現状の課題を整理しながら、どのように対策するかを保護課のケースワーカーも交えて相談することで、ある程度の見通しが立ちました。当初入院を嫌がっていたAさんも、治療やリハビリの効果を実感するにつれ、意欲的になり、少しずつ病状も改善していきました。
退院後、一人で生活を維持することは困難なので、サポートがほしいと希望がありました。介護保険は年齢や疾患的に対象ではなく、身体障害もなく、精神疾患も現在は寛解と診断され、障害福祉サービスの利用も困難でした。比較的費用の安い社協の家事代行サービスはありますが、それでもAさんにとっては経済的に利用が厳しいものです。Aさんの「新居で一人暮らしを再スタートする」という目標に向け、日常生活を想定したさらなるリハビリが必要と、系列のリハビリ病院へ転院となりました。
年齢が若くてもSOSを出せず、セルフネグレクト状態になっている患者でも、入院をきっかけに新たな生活の第一歩につなげることができるのだと感じると同時に、制度の狭間(はざま)にある患者のサポートについて考えさせられるケースでした。
(民医連新聞 第1794号 2023年11月6日)