第16回全日本民医連 学術・運動交流集会in石川 テーマ別セッション 食にかかわる多職種連携、LGBTQ、人権など、3つのテーマで学び深める
セッションⅠ
住み慣れた地域で食べることにこだわる
~食に寄りそうとりくみと職種連携~
地域で「食べる」ために
セッションIは、現地410人、WEB32会場が参加。超高齢社会を迎え、地域で「食べる」にこだわるために、食にかかわる職種のとりくみを知り、民医連の多職種協働をすすめるきっかけとすることが目的です。開会あいさつで全日本民医連副会長の根岸京田さん(医師)は「食にかかわる人は非常に多職種。医科・歯科・介護、文化の違う集団の連携の方法、ヒントを学ぼう」と呼びかけました。
全日本民医連歯科部部長の岩下明夫さん(歯科医師)が基調報告しました。「高齢者の労働参加を拡大するために」と政府・厚労省が打ち出す、「リハビリテーション、栄養管理及び口腔(こうくう)管理の連携・推進」政策と報酬加算などを解説。歯と口腔の現状と課題、特に高齢者歯科医療、民医連歯科の優位点、『歯科酷書』やWHO第74回保健総会「口腔保健」決議からみる根本課題にも言及。住み慣れた地域で「食べる」にこだわるとりくみの継続と、実践を定期的に交流する自主研究会「地域で口から食べる研究会(案)」の立ち上げを提案しました。
多職種の実践と課題を知る
続いて多職種7人が「食べる」をささえる実践を報告しました。
新潟・下越病院の張替徹さん(医師)は、地域の医療機関や多職種と立ち上げた摂食嚥下(えんげ)障害者支援チームと、その発展を紹介。
東京・大田歯科の吉田心一さん(歯科医師)は、症例から義歯修理や嚥下評価、高齢者の口腔に残る金属製品の影響を示しました。
宮城・坂総合病院の大川悠さん(言語聴覚士)は、病院での嚥下情報シート改定や食事開始フローチャートの作成、地域包括ケアシステムのなかでの食支援にかかわった経験を報告しました。
埼玉・秩父生協病院の新井さとみさん(看護師)は、地域医師会発行の療養手帳での情報共有、通所リハや病棟、老健での実践を紹介し、地域全体の口腔ケア水準を上げる必要性を訴えました。
富山・看護小規模多機能型居宅介護わたぼうしの白取絵里香さん(介護福祉士)は、本人・家族の希望に合わせ多職種で口から食べることを支援した事例を紹介。
青森・健生病院の原田千明さん(歯科衛生士)は、歯科のない病院のリハ科に所属し、多職種と奮闘してきた経験を語りました。
愛知・名南ふれあい病院の大木直矢さん(調理師)は、患者・利用者の在宅や外泊時に食事を提供する家族への調理指導の実践を報告しました。
その後、報告者7人が再登壇し、パネルディスカッションで課題や連携、前進の可能性を深めました。閉会あいさつは、榊原啓太さん(歯科医師)。「トップランナーの7人以外にも、他職種、共同組織、地域の人のかかわりも重要。地元に持ち帰り、同じ方向をみる仲間とがんばろう」とのべました。(丸山いぶき記者)
セッションⅡ
LGBTQ当事者が安心してかかることのできる事業所をつくるとりくみの交流と前進を
すべての人が当事者
セッションIIは現地参加約240人、WEBから46のアクセスで行いました。
前半は茨城・城南病院の菊地修司さん(医師)が、全日本民医連で今年6月に「SOGIコミュニティ」を立ち上げた経過や、活動内容を講演しました。「LGBTQではなくSOGI(性的指向、性自認)としたのは、すべての人が当事者という意味を込めた」と説明。トップを決めず、横並びで職種間の権威勾配を廃した組織構造をめざして活動していることを強調しました。
今後は当事者が安心して集まれる場所づくり、パートナーシップ制度への対応や相談窓口の設置、性別適合手術への対応や性別変更の法的要件緩和のたたかいなど、さまざまな活動を検討していることを紹介。活動を通じて「すべての民医連事業所がLGBTQフレンドリーになってほしい」と呼びかけました。
実践、悩み、課題を交流
後半では4人の演者が登壇し、各地の活動を報告しました。
神奈川・協同ふじさきクリニックの山寺睦美さん(看護師)は、有志から始まった川崎医療生協の「ダイバーシティ推進委員会」の活動や、事業所でのとりくみを発言。制度教育にSOGIの学習を導入、制服のジェンダーレス化、問診票の見直し、患者の通称名使用への対応、結婚・介護休暇のパートナーシップ制度の適用などの実践を報告しました。
北海道・札幌病院の長屋春香さん(SW)は、北海道勤医協の二つの病院のとりくみを報告。勤医協中央病院では、ジャンボリーの若者の自主的活動から始まり、小さな学習会をくり返し行って活動をひろげています。札幌病院では、産婦人科の医師を中心に自主参加のLGBTQチームをつくり、誰でもトイレの導入、自治体のLGBTQフレンドリーシップ企業への登録をしました。
東京からは、北足立生協診療所の丸山晃央さん(医師)とみさと健和病院の山本晴希さん(医師)が2人で登壇。東京民医連の青年医師がとりくんだジェンダーアンケートについて報告しました。現場にハラスメントや差別発言があることや、相談体制の不足、「身近に当事者はいない」と思っている人が多い実態を明らかにし、「無差別・平等をかかげる民医連だからこそ、自己批判による発展が必要」と強調しました。
4人の発言のあとは、フロアと演者で討論しました。「有志で集まる時の工夫は?」「パートナーシップ制度導入時のアウティング防止策は?」「更衣室やロッカールームにどう対応するか」など、さまざまな質問が。演者だけでなく参加者同士も実践例や悩みなどを交流し、活発な討論が行われました。(稲原真一記者)
セッションⅢ
人権しゃべり場in石川
~social action やるんやよ~
セッションIIIは現地約140人、WEB約10人が参加。「やるんやよ」は「やろうじゃないか」という意味の石川県の方言だという全日本民医連副会長の柳沢深志さん(社保運動・政策部部長)のあいさつで始まりました。
続いて、愛知・名南病院の外山早紀さん(SW)、NPO法人もやい理事長の大西蓮さん、金沢市議会議員の広田みよさん(日本共産党)が講演。各講演が終わるごとに、参加者が3人1組で意見を交わすトリオセッションを行う形で進行しました。
外国人医療と入管問題
外山さんは、外国人医療と入管問題について講演。医療費の支払いが困難で、名南病院の無料低額診療事業を利用した外国人の統計(2022年度)を報告しました。外国人の利用者の出身国は21カ国で、年齢も10~70代まで幅ひろくまたがっています。国保証所持者は3人で、残り47人が無保険。この47人は「国外退去を命じられて入管施設に収容されたが、病気などやむを得ない事情で仮放免となった」46人とほぼ一致。仮放免中は就労も保険加入も認められない問題を指摘し、事例も報告しました。
困窮「一歩手前」が増加
大西さんは、ワーキングプアを中心に日本の貧困問題を講演。生活困窮者支援の現場に来る人たちの層がコロナ禍を経て変化しており、「仕事や住居はあるが、収入が不安定」など、生活できなくなる「一歩手前」の人たちが増えていると話しました。
大学の学費があまりに高いために、卒業時、2人に1人が平均324万円の借金(奨学金)を背負った状態となっていることにも言及。「学費が安ければ、奨学金を借りる必要もない。学費の無償化は3・1兆円でできる。社会の構造は変化させることもできる、と考えることは重要」だと語りました。
政治が健康に影響
広田さんは、石川民医連の元看護師・保健師(城北病院)。民医連職員時代と市議の経験から、「民医連の役割と存在意義」について考えたことを講演。保健師時代はタクシー労働者に循環器疾患が増えている要因を調査。背景に、国の規制緩和によるタクシー業界の参入者増があり、賃金の低下、客待ち時間の長時間化がすすみ、疾患増につながったと推察されます。
市議当選後も12年で600件以上の相談に対応し、「そのどれもが、社会や経済状況の縮図だと感じるものばかり」と広田さん。リーマンショックで派遣切りにあった青年の相談事例も紹介し、人は誰もが社会の変化に左右され、困窮に陥る可能性があり、健康や生活を守る上でも経済政策、社会保障制度が重要であること、現場から制度改善のために声をあげる民医連の活動の重要性を語りました。(多田重正記者)
(民医連新聞 第1794号 2023年11月6日)