フォーカス 私たちの実践 栄養評価と改善にKTバランスチャート活用京都・介護医療院茶山のさと 栄養改善・食事支援を多職種で可視化し実践
京都・介護老人保健施設茶山のさと(2022年3月1日より現介護医療院に転換)では、食事摂取量が少なく、低栄養の基準となるBMIが18・5未満の利用者は約50%となっています。栄養サポートチーム(以下、NST)が3年前から活動し、1年前から介護福祉士も参加しています。NSTに参加する介護福祉士が、高齢者の栄養改善のためにどのような支援ができるか考え、とりくみました。第15回看護介護活動研究交流集会で、現地実行委員長賞を受賞した、介護医療院茶山のさとの西上(にしがみ)友実子さん(介護福祉士)の報告です。
まず、KTバランスチャートを活用することで、高齢者に対する効果的な栄養評価と改善アプローチができることを明らかにしました。また、食事支援・栄養管理における介護福祉士の役割を見いだすことにしました。
KTバランスチャートは嚥下(えんげ)機能を包括的に評価する方法。「食べる意欲」「全身状態」「呼吸状態」「口腔(こうくう)状態」「認知機能」「咀嚼(そしゃく)・送り込み」など13項目で構成され、各項目を1(最低)~5(最高)のポイントで評価し、レーダーチャートに描かれたKTバランスにより、介入すべきポイントを視覚的に認識できることが特徴です(図参照)。
当施設では、入所利用者のなかで低栄養または低栄養に近い高齢者2人に対し、(1)NST委員会で、KTバランスチャートを使用し評価。(2)評価をもとに利用者への食事ケア方法を、NST委員会や多職種で決め、実践。(3)3カ月後再度KTバランスチャートで評価し、食事摂取量や体重、BMIの変化をみることにしました。
■評価とアプローチ
Aさんは100代の女性、要介護5で、認知症と慢性間質性肺炎が既往症。全介助、車いすで移動しています。総義歯で、主食は米粉粥(がゆ)、副食はペースト食です。BMI19・5で低栄養手前でした。
KTバランスチャートから評価した問題点は、開口が小さくスプーン上の食べ物を捕食する力が弱いこと。むせると肩呼吸になり疲れること。自力で摂取できる能力はありますが、覚醒が悪いことでした。
そこでアプローチの内容を検討。食前の嚥下体操の実施、スプーンを柄が長く、軽く使いやすい物に変更、午後3時の水分補給時に、簡単な体操とブローイング訓練を行いました。また食事に認識、意欲を持つように食事の献立を伝えました。レクリエーションに参加し、生活に楽しみを持つようにしました。
結果は、むせることが減り、開口が良くなり、スプーン上の食べ物を捕食できるようになりました。KTバランスチャートの評価が向上し、BMI19・7と、目標の維持を継続してできています。
Bさん80代の男性。要介護3、認知症、神経性膀胱(ぼうこう)、高血圧。食事は減塩食で全粥。口腔状態は上のみ義歯で、下は歯根が4本のみ。BMI17・9で低栄養状態。KTバランスチャートから評価された問題点は、義歯が上のみでかむことができない、栄養状態が悪い。水分摂取量が少ない。頻回にトイレに行き、食事に集中できないことでした。
そこでBさんへのアプローチの内容は、義歯作成できるか確認する、トイレに行きそうになったら声をかける、食後の歯磨きで口腔ケア、お茶に砂糖を混ぜて飲みやすくすることとしました。
結果は、義歯を作成でき、頻回だったトイレに行く回数は職員がかかわりをもつことで減り、落ち着いてきました。食事摂取量も増えて、生活のリズムができ、歩行が安定し、発語も増えました。KTバランスチャートの評価は大きく向上しました。体重も増加し、BMI19・7と向上しました。
■健康や生活の楽しみに
高齢者における栄養管理は、高齢者の健康寿命を延伸する意味でも、疾病治療の上でも重要な課題です。KTバランスチャートを用いて対象者を多職種で正しく評価、可視化でき、統一したケアを実践することができました。これらを継続して行うことが、今後の高齢者の健康や楽しみにつながると考えます。
KTバランスチャートは、高齢者の栄養管理と改善アプローチに有用です。NSTでの介護福祉士の役割は、高齢者の日々の変化や状態を提起し、職員の統一したケアの実践につなげることです。
(民医連新聞 第1792号 2023年10月2日)