ともに生きる仲間として―非正規滞在の移民・難民たち 第12回 緊急医療は人権 国が国際基準の制度整備を 文:沢田 貴志
新型コロナウイルス感染症の流行下では、在留資格を失った外国人の病人が増加する事態となりました。技能実習生の間には実習先からの給与が未払いとなり、失踪する人も多数ありました。留学生の間では長期間アルバイトができずに学費が払えなくなり、留学生としての在留資格を失う事態が生じました。また、入管施設がクラスター回避のために多数の人を仮放免としましたが、そのなかに進行がんなどの重病人も多数含まれていたのです。
一方で、医療側の供給にも問題が生じていました。数年前から医療ツーリズムや訪日観光客の増加をめざす経産省主導の政策がすすんでおり、この影響で無保険の外国人をすべて富裕層や旅行者とみなして保険点数の2~3倍の医療費を請求する病院が増えていたのです。公立病院の独立採算制がすすむなかで、地域の中核になるような公立病院やエイズ診療拠点病院の間でも、このような対応をする病院が増えてしまいました。こうして無保険の外国人を受け入れる病院が減少し、無料低額診療事業実施施設に相談が集中する結果となりました。財政規模の小さい無低診施設では予算を使い果たしてしまい、さらなる外国人の無保険者の受け入れに困難が生じることとなりました。
3カ月を超える在留資格がなければ国民健康保険に加入できない現在の運用が続く限り、無保険状態に置かれる外国人をなくすことはできません。こうした人びとであっても人道的な見地から緊急医療は受けられるように、財源が確保されるべきです。その一つの方策として必要なのが、無保険の急病人への未払い医療費を自治体が補てんする制度です。すでに東京・神奈川など一部の自治体で実施されていますが、国の支援がなく予算が十分ではありません。
EUでは緊急医療は人権であるという立場から、多くの国で医療を保障する財源を定めています。日本がいのちの差別を行わない社会として国際的な信用を保っていくためには、こうした制度の整備が不可欠です。
さわだ たかし 医師。神奈川・港町診療所で多くの外国人の診療も担う。外国人の無料健康相談、県の医療通訳制度の構築にも尽力
(民医連新聞 第1791号 2023年9月18日)