ともに生きる仲間として―非正規滞在の移民・難民たち 第11回 医療環境整備は患者も病院も社会も助ける 文:沢田 貴志
在留資格を失った人であっても緊急事態で医療を受けることは、当然保障されなければならない基本的人権です。しかし、日本では良心的に治療を提供しようとする医療機関に対して、財政的な保証がされていないという制度上の課題があります。こうした問題は新興感染症の拡大で危機が生じた時により深刻になります。
30年前にエイズが世界的に大流行した時もそうでした。エイズは5類感染症ですので、結核や新型コロナウイルス感染症と異なり治療費が公費負担になりません。さらに月に15万円以上もかかるエイズ治療薬を毎日飲み続ける必要があります。そこで当時、エイズを発症した外国人が無保険であった場合に、多くの病院はほとんど検査や治療をせずに帰国を促すばかりでした。このため外国人の間ではエイズは助からない病気という認識がひろがり、検査を受ける人も少なく、重症化してから初めて病院を訪れる人が多かったのです。意識障害や呼吸困難で搬送されることも多く、救命できても巨額の医療費が未払いとなり、医療機関にも大きな負担となりました。
そんななかで2002年に転機が訪れます。国連がエイズ医療を人権であると位置づけ、開発途上国でも普及にとりくみだしたのです。日本でもNGOや外国人ボランティア・エイズ診療拠点病院の医師たちが連携し、無保険外国人のエイズ診療の改善にとりくみました。健康保険がなくても拠点病院は日和見感染症の治療をしっかりする。NPOが通訳を派遣しソーシャルワーカーが面談。日本で在留資格が得られる可能性があればその支援をし、帰国の場合も出身国の治療をかならず確保する。という流れをつくりました。厚労省の協力も得て外国人のエイズ診療にかかわる拠点病院に研修を行い、普及に努めました。こうしたなかで外国人の重症エイズ患者は大きく減少しました。早期治療の体制整備は患者も病院も社会も助けるのです。
しかし、この間、無保険外国人の医療環境は悪化しています。あるべき制度の改善について次回触れます。
さわだ たかし 医師。神奈川・港町診療所で多くの外国人の診療も担う。外国人の無料健康相談、県の医療通訳制度の構築にも尽力
(民医連新聞 第1790号 2023年9月4日)
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