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民医連新聞

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地域とつながりささえ合う 第1回まちづくり実践交流集会

 全日本民医連は7月15日、「踏み出そう、地域とつながり支えあうまちづくりを目指して」をテーマに、第1回まちづくり実践交流集会を開催。主会場を東京に置き、WEB併用で約260人が参加しました。(多田重正記者)

 はじめに、全日本民医連まちづくり委員長の根岸京田さんが問題提起。医療・介護、都市計画、住民運動の3つの分野における、まちづくりへのアプローチを解説しました。医療・介護分野では、戦後、医療の主な対象が感染症から生活習慣病に移行したことで、患者の生活や社会自体の改善が課題に。高齢化とともに、認知症やフレイルなどの病態では、「治癒ではなく、地域との共存が求められている」と指摘。根岸さんは、世界保健機関が提唱している「ゼロ次予防」(そこに暮らしているだけで健康になる環境づくり)や、日本でも医学教育のカリキュラムにSDH(健康の社会的決定要因)が位置づけられていることなどにも触れました。
 都市計画では、人口減少を踏まえて、日本政府は役所や商店、郵便局、診療所などの社会インフラを集中させるなど「コンパクト」化を推進。「ウォーカブルシティ」(歩きたくなる都市)など、まちの環境を健康増進に寄与するように変えていく試みも行われています。住民運動では、東京の杉並区などで、子育て世代をはじめとする若い市民も参加して、医療・介護・福祉・子育てなど「ケア」にかかわる要求を掲げ、住民本位の首長を誕生させる経験が生まれていることなどを報告しました。
 民医連が「まちづくり」を掲げたのは、1998年の共同組織委員長会議と、1999年の第5回共同組織活動交流集会が最初。現在は、患者と医療従事者の「共同のいとなみ」の概念をまちづくり運動にひろげ、第43回総会(2018年)で、民医連のめざすまちづくりを「地域の福祉力を高め地域を福祉の場につくり替えていく実践」と位置づけました。
 根岸さんは今後の課題として(1)無差別・平等の地域包括ケアの中核を担う組織をめざすこと、(2)ソーシャルキャピタル(地域における信頼・ささえ合いのネットワーク)の豊かな地域をつくること、(3)患者・利用者を地域のネットワークにつなげる社会的処方をすすめるリンクワーカーを誰もが担えるようになること、(4)積極的にまちに出て人とつながること、(5)法人・事業所の方針として地域にかかわること、の5つを提起しました。
 続いて千葉大学予防医学センター教授の近藤克則さんが「Well Active Communityづくりは可能か?」と題して、記念講演。その後、3つの事業所が、まちづくりの実践について報告し、班に分かれて交流。お互いのとりくみや課題などを出し合いました。
 集会のまとめに立った全日本民医連副会長の川上和美さんは、「明日から参加者のみなさんが、リンクワーカーとして前進すること」や、まちづくり委員会作成の「チェックリスト」を活用して、「まちづくりを考えるきっかけにしてほしい」と呼びかけました。

記念講演
Well Active Communityづくりは可能か?
千葉大学教授/日本老年学的評価研究機構代表理事 近藤克則さん

 「Well Active Community」(WACO)とは、千葉大学がすすめる研究のスローガンで、「暮らしているだけで健康で活動的になるコミュニティー」のこと。近藤さんは、WACOの中心テーマの一つであるソーシャルキャピタルについて「はかれるのか」「増やせるのか」「健康水準を上げる効果はあるのか」「社会全体にひろげることができるのか」などの批判・疑問に答えるために、数々の調査結果を示しました。
 最初に、近藤さんは日本老年学的評価研究(JAGES)機構の調査結果を提示。市町村の協力を得て、趣味や老人クラブ、スポーツなどにどのぐらいの頻度で参加しているのか、高齢者(65~74歳)の回答を得て、自治体同士を比べました。すると、フレイル該当者の割合は最小5・2%、最大13・3%で、格差は2・6倍に。スポーツや趣味のグループに年数回以上参加している人の割合が大きい自治体ほど、フレイル該当者が少ないことがわかりました(図1)。
 さらに調査開始時点で「要介護認定を受け、社会参加が難しい」人を除いた1万2951人を4年間追跡したところ、参加組織の種類が多いほど、要介護認定に至る確率が低いことが明らかに(図2)。運動を週1回以上とりくんでいる人でも、仲間ととりくんでいる方が要介護状態になるリスクが低いこともわかりました(図3)。

サロンづくりで介護費用も減少

 また、近藤さんは愛知県武豊町で行った調査、実践を紹介。追跡調査の結果、ボランティアに参加している人に比べ、していない人の方が2倍認知症になりやすいというデータを得たため、住民を対象に報告会を行いました。町の協力も得て、「ボランティアに参加すれば、認知症になる確率を半分にできる可能性がある」と説明し、町内各地にサロンを発足させるためにボランティアを募集したところ、ボランティアの数がそれまでの約20人から180人と9倍に。2015年以降、町の後期高齢者の要介護認定率が下がり続け、介護費用も減りました。
 さらに近藤さんは、民間企業との協力で、ゴミの分別回収場を拠点としたコミュニティーづくりの実践「こみすて」がもたらす効果も調査。福岡県大刀洗町に設置された「こみすて」では、子どもがお年寄りに教えてもらいながら、ゲーム感覚でゴミを分別していました。生ゴミを持ってくると分解する装置があり、そばには子どもたちが描いた看板やベンチがあり、「井戸端会議」の場になっています。ピザ窯も設置されていて、「土地が空いているなら」と畑を耕す人まで現れ、収穫物でピザを焼く食事会も。結果、「こみすて」の利用頻度が多い人ほど、健康への意識が高まり、「幸せを感じるようになった」「気持ちが明るくなった」人が増加。「健康状態に差が出てくる可能性が見えてきた」と近藤さん。

ひろがるまちづくりの可能性

 現在、住民の健康状態を改善することで抑えられた介護費用の一部を、ソーシャルキャピタルづくりにかかわったボランティア、企業、団体などに行政から支払うとりくみが一部の自治体で始まり、ひろがっています。「まちづくりを運動だけでなく、経営活動としても位置づけられる可能性が見えてきた」と近藤さん。「ソーシャルキャピタルは増やすことができ、健康を守る効果があり、社会全体にひろげられる可能性も十分にある」と強調しました。

各地のとりくみ報告から
気がかりのバトンをつなぐ
埼玉・永躰千春さん(看護師)

 永躰さんは、深谷生協訪問看護ステーションの業務を通じて、「医療的ケア児や精神疾患を抱える人の自立支援の機会や交流の場の少なさ、高齢者の孤立など、気がかりの場面に多く出会った」と話し、利用者と家族、地域住民をささえるつながりや支援の輪をひろげていることを報告しました。
 そのひとつが在宅で看取った利用者の家族を対象とした「偲(しの)ぶ会」。「安心して最期を迎えることができた」「今でも最後はあれでよかったのかと考えてしまう」などの思いに傾聴し、医療生協さいたまの仲間になった人も。
 さらに「地域いきいき交流会」も開催。理学療法士が参加する月1回の体操サークルも発足させ、元利用者の家族や、状態が改善して要介護認定が外れた人などに案内しています。医療的ケアが日常的に必要な利用者(児童)の親対象の「パパママ交流会」も実施。
 利用者とくらしサポーターをつなげたり、医療生協の班づくりの「お手伝い」も。永躰さんは「『気がかりのバトン』をつないでいくことが、私たちの地域での役割」と語りました。

職員が地域に出る「仕組み」づくり
大阪・前田元也さん(事務)

 西淀病院は、全職員が1年間に1回以上、HPH活動に参加することを方針に。前田さんは活動の一部を紹介しました。
 そのひとつが、近隣の小中学校への喫煙防止教室。新人研修にも位置づけ、地域に出向く意味をふり返る機会にもしています。
 コロナ禍のもとでフードバンクも実施し、初参加の職員からは「同世代の人たちがこんなに来ているとは思わなかった」との声が。
 今年7月1日には「熱中症予防」をテーマとした地域診断も。行政関係者、消防署、民生委員、社協、健康友の会の人などが参加。「病棟看護師も生き生きと議論に参加していた」と前田さん。全職員にQRコードを渡し、HPH活動の参加報告を受けていることも紹介し、「2022年度の参加は95・6%。今年度は100%に」と語りました。

踏み出そう 思いを形にするために
新潟・高橋良太さん(連行運動指導士)

 メディカルフィットネス・ウオーム(かえつクリニックに併設)の高橋さんは、地域とつながり、地域が「安心して住み続けられるまち」になるよう働きかけていくことを目的とする「地域とつながる会議」の活動を報告。メンバーは、かえつクリニック、ひなた薬局、健康友の会の7人で構成しています。
 2020年度は班会のプロデュースを目標としましたが、クリニックやウオームのある阿賀地域には班がないため、班結成に挑戦。地域への情報提供を中心としたイベントを行うなど、試行錯誤するなかで、継続的にイベントに参加した地域の仲良しグループに声をかけて、カトレア班が誕生。
 このことに自信をつけ、2022年にはカトレア班とも協力して、病院・クリニック近くのウオーキングコースを完成させました。コースを使ってポールウオーキングを実施したところ好評で、ポールウオーキング四ツ葉班も結成。高橋さんは、「子ども企画」も検討していると報告しました。

(民医連新聞 第1789号 2023年8月21日)