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民医連新聞

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ともに生きる仲間として―非正規滞在の移民・難民たち 第10回 生命にかかわる緊急時でも医療を受けられない 文:沢田 貴志

 私が診療をしている神奈川県横浜市内の診療所には外国人の患者も多く、健康保険に入れない立場の患者もしばしば来院します。数年前、胆石による膵炎(すいえん)をくり返しているのに、手術が受けられないという男性が相談に来ました。彼は障害のある日系人の妻をささえながら子育てをしていましたが、入国時の書類に問題があり在留資格が認められず、入管施設に収容されてしまいました。
 欧米では、入国時に違反歴があっても合法的に滞在する妻子があれば、家族の結合権(子どもを含む「家族」が同じ場所で暮らす権利)を優先して在留資格を与えることが通常と聞いています。しかし、日本では入国管理の対応がとても厳しく、このように合法的に在留する家族がいるのに在留を許されず、就労も健康保険加入もできない人が少なからずいます。
 この男性は収容中に総胆管に胆石が詰まってしまい、2度の膵炎を経験しました。これは生命に危険が生じうる緊急事態です。当然、主治医は次の膵炎を防止すべく、胆嚢(たんのう)摘出術を行おうとしたはずです。しかし、入管は病院に胆嚢摘出術を依頼せず、代わりに男性を仮放免としました。仮放免をすれば医療費の財源がありません。「治療を受けたいなら帰国しなさい」というメッセージだったのでしょうか。大変危険なことです。出身国に生活の基盤がなく、日本でしか家族がともに暮らせない事情があった男性は、自治体の生活相談窓口を経て私たちのところに相談に来たのでした。たまたま住所地のそばの三次救急医療機関が無料低額診療事業(無低診)に対応しており、審査のさなかに胆石膵炎がおきて緊急手術となりました。
 しかし、無低診を行っている施設のほとんどは小規模で、重症化のリスクがある患者への緊急手術をタイムリーに行うことは困難です。仮放免中の外国人には生命に危険が生じる緊急事態でも、医療が確保される仕組みがないのです。免疫不全で肺炎をくり返す仮放免者が地元で医療を受けられず、敗血症ショックを疑う状態で遠方の病院に救急搬送したこともあり、制度の不備を実感します。


 さわだ たかし 医師。神奈川・港町診療所で多くの外国人の診療も担う。外国人の無料健康相談、県の医療通訳制度の構築にも尽力

(民医連新聞 第1789号 2023年8月21日)