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民医連新聞

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被ばくや被害の実相に寄り添い核のない世界を 全日本民医連 第18回被ばく問題交流集会

 東京電力福島第一原発事故から12年がたつ福島県で、7月1~2日、全日本民医連は第18回被ばく問題交流集会を開催。WEB併用で全国から72人が参加しました。

 全日本民医連理事で、被ばく問題委員会の中野亮司さんが開会あいさつ。続いて現地歓迎あいさつを行った福島県民医連会長の北條徹さんは、「『原発事故は二度と起こしてはいけない』。これが県民共通の思い」だと強調し、「県民の立場での復興と原発ゼロを結んだ運動に粘り強くとりくむ」決意を語りました。
 問題提起は、被ばく問題委員長の藤原秀文さん(広島・城北診療所)。広島・長崎の被爆者たちが高齢化するもとで、被爆者に寄り添う医療と介護、生活支援が求められていることや、被爆体験を継承する活動、「黒い雨」訴訟の支援などを訴えました。
 また、ビキニ水爆実験(1954年)で被ばくした元船員と遺族らがたたかっている裁判の支援や、核兵器廃絶の「草の根」の運動を強め、日本政府に核兵器禁止条約への批准を求めること、原発再稼働を許さず、原発ゼロに向けた国民的な運動をすすめること、原発事故避難者にひきつづき寄り添うこと、被ばく問題に精通した職員の後継者養成などを呼びかけました。
 記念講演は、福島大学名誉教授の鈴木浩さん(福島県復興ビジョン検討委員会座長)。原発災害からの復興に際して求められる視点と指標づくりなどを語りました。
 その後カクワカ広島共同代表の田中美穗さん、KNOW NUKES TOKYOの中村涼香さんが、それぞれ青年の核廃絶に向けた活動を紹介。福島医療生協理事長の齋藤紀さんは「核時代を共に生きる」と題して、民医連がとりくんできた被爆者医療や支援活動、直面してきた課題などをふり返りました。
 2日目は、「気候危機と原発」「被ばく医療セミナー」の2つのテーマ別セッションを実施。その後、黒い雨プロジェクト活動報告(広島)、ビキニ訴訟支援(高知)、県連被ばく事故対策委員会の活動(福島)、福島原発事故被災地支援バスツアー(神奈川)、原発事故避難者へのエコー検診(愛知)のとりくみを報告しました。

記念公園
「福島原発災害からの生活再建と地域再生に向けて」
福島大学名誉教授・鈴木浩さん

 鈴木さんは、ドイツがチェルノブイリ原発事故(1986年)や福島第一原発事故を受けて、全原発を廃炉にし「原発の持つ深刻な課題を次の世代に引き継がない」と決めたことを引き合いに、「日本とは対照的」だと指摘。国が考える福島県の復興計画も、被災者を主体としたものとなっておらず、「『口を開けて待っていればいい』という姿勢の復興サービスばかり」と批判しました。また、インフラ整備や大規模開発などが掲げられるものの、県内の自治体、産業界、住民などと「どんな関係があるのか、ほとんど見えない」と語りました。
 さらに政府が考える復興のシナリオは「除染↓避難指示解除↓即帰還」という「単線型シナリオ」になっており、これでは「被災者の生活は絶対に戻ってこない」と強調。原発災害の被害は長期間におよぶことから、「時間的要素を加味した復興ビジョン・計画が非常に重要」であることにも触れました。
 このような国の復興ビジョンに対し、被災者自身が主体となった復興計画の「議論の下敷き」にするためにまとめたのが、「だれ一人取り残されることがないために~県民版 原発災害からの復興ビジョンの提案~」(2022年発表)です。同ビジョンではめざすべき姿として、「被災者・避難者の生活と生業(なりわい)の再建」「ふるさとの復興と地域社会の再生」「原発事故の収束と廃炉」を掲げ、それぞれに照応した3つの視点「生活の質」「コミュニティーの質」「環境の質」と、6つの課題を提示しています()。
 鈴木さんは「地域コミュニティーの重要性が、(原発事故後の)12年間ではっきりした」と語り、「地域力(コミュニティーの力)、市民力(市民一人ひとりが意見を発信する力)、公共力(公共サービス)、市場力(市場マーケット)の4つがバランス良く存在することで、地域コミュニティーは成り立つのでは」とのべました。

テーマ別セッション①
気候危機と原発

 最初に、環境問題NGOのFoE JAPAN・吉田明子さんが「日本の気候変動政策の現状と市民の動き」と題して基調講演を行いました。
 吉田さんはまず、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)で、2015年に締結されたパリ協定に言及。世界の気温上昇は、すでに産業革命前から1・2度上昇しており、協定は「気温上昇を2度未満、できれば1・5度までに」抑えようと、温室効果ガスの削減を掲げています。
 しかし日本政府の削減目標は不十分な上、原発に固執。しかも日本政府はG7で唯一、石炭火力発電所全廃の方針がありません。日本では2012年以降、30基以上の石炭火力発電所が新たに建設され、稼働。政府は水素やアンモニアを燃やす「ゼロエミッション燃料」による発電法の実用化もめざしていますが、石炭や天然ガスなどが原料で、「技術は未確立でコストも高い」と吉田さん。
 一方で現状でも、東日本大震災前に電力に占める割合で約10%だった再生可能エネルギーは、20%以上に拡大。ただし、原発や石炭火力発電などの大規模発電の存在を前提としているため、再生可能エネルギーの出力制御が行われるなど、矛盾した政策が行われています。
 吉田さんは、2018年にグレタ・トゥーンベリさんが気候変動問題で声をあげて以降、日本でも高校生や大学生などが立ち上がっていることを紹介しました。そして自治体のエネルギー政策であれば、原発・石炭火力などの大規模発電よりも、「地域で再生可能エネルギー、省エネルギーをどうするか」という話につながり、「大きく変える余地がある」と強調。再生可能エネルギーを中心とした電力会社を選ぶ「パワーシフトキャンペーン」にも触れました。
 講演の後、「原発ゼロの会・大阪」のとりくみと、市民が出資してつくった「原発ゼロ市民共同かわさき発電所」のとりくみが報告されました。

テーマ別セッション②
被ばく医療セミナー(介護手当について)

 セッション②は、被爆者が「原子爆弾の傷害作用の影響による精神上または身体上の障害」により「費用を支出して身のまわりの世話をする人を雇ったとき」に支給される介護手当の活用がテーマ。冒頭、全日本民医連被ばく問題委員長の藤原さんが制度が知られていないために、医師が書類(診断書)を作成できない、などの問題が生じていることを指摘し、周知と活用を呼びかけました。
 次に日本被団協原爆被害者中央相談所の原玲子さんが、被爆者の平均年齢が84歳を超えて、次々と病気、経済的困窮などに直面し、「声をあげる体力もなくなってきている」状況を報告。
 原さんは、80歳の妻の介護を受けている92歳の被爆者に、介護手当の説明をしたことや、「あのときに死んでいれば」との声も寄せられていることを紹介し、「核兵器禁止条約発効で中心的な運動を担ってきた被爆者が『生きていていいんだ』と思える相談活動を続ける覚悟です。みなさんのご協力を」と訴えました。
 続いて広島・福島生協病院の松井泰子さん(SW)が介護手当の活用における、SWやケアマネジャーの役割を解説。手当の併給(健康管理手当と医療特別手当など)は原則認められていませんが、介護手当だけは併給可能です。介護手当の受給額を超えた介護費用を払った人に4万3940円以内の「被爆者介護手当付加金」を出す制度がある自治体(広島市)や、国の基準以上の額を介護手当として支給する自治体(東京都)などもあることを紹介するとともに、実際の介護手当活用例も紹介しました。
 被ばく問題委員の向山新さん(東京・立川相互病院)は、被ばく問題にかかわってきた医師の立場から、介護手当の診断書の作成方法と注意点などについて解説しました。

(民医連新聞 第1787号 2023年7月17日)