人権のアンテナを高く 東京・中野駅前なんでも相談会が130回
5月24日に行われた「中野駅前なんでも相談会」。東京・中野共立病院・中野共立診療所をはじめとする健友会の職員有志が、2010年10月から始めた相談会は、この日で130回を迎えました。(多田重正記者)
夕方の中野駅北口前広場。相談会のチラシを配ったり、プラスターを掲げるスタッフ。健友会経理部長の松本明彦さん(事務)が「どなたでも利用できる相談会です。医療・介護のこと、法律のことなど、専門家が相談に乗ります」とハンドマイクで呼びかけます。
「なんでも相談会だって!」と指さす若者も。プラスターやチラシを見て立ち止まる人も多く、そのたびにスタッフが声をかけます。
この日の相談は15件。▽肩の痛みを訴える20代男性と、ホルモン治療を希望するトランスジェンダーの10代女性の二人組(中国籍)、▽単身赴任を終えた夫から離婚を切り出され、家から出て行けと言われた40代女性、▽障害者枠で働いているが、体調に波があり収入が安定しない30代女性、▽「賃金が本来の額より低いのでは」と訴える日雇い労働者の40代男性などからの相談が寄せられました。
身近なところから深刻な訴えが
相談会のきっかけは年越し派遣村(2008年末~翌年初頭)。「派遣切り」で仕事と住居を失った労働者500人が集まったこのとりくみに、中野共立病院の医師らもボランティアで参加し、「中野でも外に出て行く活動が必要」だと話し合っていました。そこへ2010年、中野駅前の社保宣伝の際に「仲間がどんどん死んでいく。なんとかならないか」とタクシー運転手が声をかけてきました。松本さんは、「本当に困っている人は、医療機関に来ることができていなかったんだ」と法人内の仲間に声をかけ、相談会をはじめました。
今は中野区の許可を得て場所を借り、毎月第4木曜日の17時半~19時に開催。健友会の医師、看護師、ソーシャルワーカー(SW)、事務のほか、弁護士、司法書士、区議会議員、生活困窮支援団体などととりくんでいます。
さまざまな分野の専門家が力を合わせて
相談会の趣旨に共感して、新たなスタッフも。池内宏行さん(司法書士)もその一人です。帰宅途中に相談会を見かけ、「いいことをしている」と、相談会に参加するようになりました。「最近は、高齢になった親が口座の暗証番号を思い出せない、認知症で口座が凍結され、施設入所の費用が引き出せないなどの相談が増えている」と池内さん。相談会終了後は毎回、スタッフで相談事例を共有する報告会を行っていることもあり「さまざまな分野の話が聞けて勉強になる」と話してくれました。
さまざまな分野の専門家がいることで、複雑な問題にも対応できます。「高齢になった両親の介護相談に応じていたら、遺産相続の話になることも。そんなとき、私が答えられなくても、隣に法律の専門家がいれば、すぐにつなげられ、多くの問題に対応できる」と、健友会・介護福祉事業部長の大出珠江さん(SW)。同法人看護部長の渡邉由絵さんは「病院にいるだけではわからない、患者さんの生活背景をつかめるのがいい」と相談会の魅力を語ります。
必要な人に相談・支援が届くように
課題もあります。「相談が必要な人はもっといるはず」というのが、スタッフ共通の問題意識です。これまでの相談会でも、離れた場所から様子をうかがう人がいたり、「数カ月前から来ようと思っていた」など、迷ったうえで訪れる相談者も。元中野共立病院で、この日は大田病院から参加した谷川智行さん(医師)は「生活など深刻な問題はやはり言いにくい」と指摘します。「でも、医療相談なら『健診でひっかかった』『血圧を測ってほしい』というところから話せるのでハードルが下がる。そこから生活など、より根本的な問題にアプローチできることがある点が民医連の強みだと思います」。
コロナ禍と物価高で「特定の層だけでなく、家も仕事もある人にまで生活困難がひろがっている」と、相談活動を通じての実感を語る谷川さん。「どうやったら、多くの人に来てもらえるか。人権のアンテナを高く張って、とりくんでいきたい」と力をこめました。
(民医連新聞 第1786号 2023年7月3日)