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民医連新聞

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相談室日誌 連載543 人工呼吸器とともに自宅へ 意思決定をささえる重要性(高知)

 Aさんは脳性麻痺(まひ)のある60代の男性。結婚歴はなく独居、大学の講師として仕事をする傍ら、趣味を楽しんだり、電動車いすで外出したり、活発に過ごしていました。
 Aさんは脳梗塞で倒れ他院へ救急搬送、搬送先で入院中に窒息し、人工呼吸器管理となり、療養先を検討するため当院へ転院。わずかに右手と首が動く程度でADLは全介助、胃瘻(いろう)を造設し、頻回に痰吸引を必要とする状態でしたが、認知症などはなく、意思伝達装置「伝の心」と口の動きでコミュニケーションをとっていました。
 「死んでもいいから自宅で暮らしたい」。それが入院初日からのAさんの希望でした。Aさんの現状から不安は拭えませんでしたが、何度面談を重ねても変わらないAさんの強い希望と、本人の望みをかなえたいキーパーソンの姉の思いに、主治医をはじめ私たち職員も「できる限りAさんの希望に寄り添ってみよう」と心を動かされました。
 しかし人工呼吸器をつけ、頻回にたん吸引が必要なAさんは独居、本当に自宅での生活が可能なのか常に不安がよぎり、問題も山積みでした。多職種で自宅での生活を何度もイメージして共有、介護・障害関係の事業所や行政へ掛け合って、ヘルパーのたん吸引研修を開催。しかしAさんに対応できるヘルパー事業所が見つからず、また見つかっても人員確保に時間を要し、難航する日々。時に「安全が確保できない…やはり自宅は無理か」とくじけそうになることもありましたが、「新たな挑戦は面白い!」というAさんの言葉と、協力を惜しまない姉の姿に励まされ、支援を続けました。リモート会議を導入、何度もカンファレンスを重ね、当院職員と関係機関で一丸となってとりくみました。
 その結果、訪問診療、訪問看護(3事業所)、訪問リハビリ、ヘルパー(2事業所・24時間体制・障害福祉で上乗せ)を利用し、当院に入院して以降約2年の年月を経て、念願の自宅退院がかないました。
 支援のなかで不安を感じるたび「これで良いかどうかを決めるのは自分じゃない。Aさんの希望こそが答えだ!」と、Aさんに教わった教訓を胸に自分を奮い立たせました。患者の意思決定に寄り添うことの重要性を、あらためて学んだケースでした。これからも当事者に伴走できるSWをめざします。

(民医連新聞 第1786号 2023年7月3日)