医科歯科連携で義歯を作成 患者の健康に対する意識が向上し全身状態も改善 福岡・たたらリハビリテーション病院歯科
しっかり噛める義歯(入れ歯)をつくったことで、患者の健康に対する意識が向上し、口腔(こうくう)内はもちろん、全身状態も改善した症例。第23回全日本民医連歯科学術・運動交流集会(4月29日)で、優秀演題のひとつに選ばれた、今井美恵さん(歯科医師)の報告です。
Aさんは60代男性。当院入院時の病名は、糖尿病、低血圧症、左大腿部から足底部にかけての蜂窩織(ほうかしき)炎、左足底部潰瘍などです。
徒歩で、大阪から被爆地の長崎をめざしていたAさん。出発1カ月後より、左足底部に痛みを感じるようになり、自分で靴が脱げなくなりました。福岡市内で痛みが限界に達し、同市内の病院に入院。靴を脱がせると、足底部の一部が壊死(えし)していました。
その後状態が安定し、治療継続とリハビリ(歩行訓練)、歯科治療を目的に当院に入院(転院)しました。
「なんでも食べてきたで」と言うが
当院では、2003年の開設時から、入院時に口腔スクリーニングを実施。Aさんも、当歯科で口腔スクリーニングを行いました。
上顎は総義歯でした。しかし、すり減るはずのない歯の外側がすり減っています(写真①。装着すると、上顎が下顎の内側に入り、噛み合いません(写真②)。
転院前の病院で、看護師が行った口腔内評価(OHAT)は2点※。「噛めますか?」と聞くと「なんでもこれで噛んで食べてきたで」と。「でも、前の主治医の先生から、ここで歯を治して元気になったらいいと言われたから、悪いところを治してほしい」との訴えでした。
血液検査の結果は、空腹時血糖が262mg/dl(基準値70~109mg/dl)、HbA1cが9・8%(同4・6~6・2%)、アルブミンが2・5g/dl(同3・8~5・2g/dl)、CRPが4・44mg/dl(同0・3mg/dl以下)。以上のことから、食品・栄養が適切に摂取できない口腔環境が、全身の健康にも影響している可能性を考え、しっかり咀嚼(そしゃく)できる義歯をつくることにしました。
新しい義歯で患者に前向きな変化
義歯作成にあたり、リマウント調整法を採用しました。「前歯でも噛める入れ歯研究会」がすすめている方法です。患者の口腔内で入れ歯を調整することが難しい場合などに有効で、噛み合わせを採取し、咬合器上で、噛み合わせをみながら調整します。口腔外で調整することから患者の負担も軽減できます。
義歯完成後は、写真③のようになりました。揚げせんべいを食べてみると、「いい音!」と感嘆の声が。バリバリと咀嚼できました。「これならいろいろ食べられる。健康になれる」と前向きな言葉も出るようになりました。
また義歯完成後より、病棟でも食事量を2000kcalから2300kcalにアップ。糖尿病も体重、血糖ともに上がることなく改善傾向に。食事量が増えたことで血圧も上昇。ふらつきも減り、リハビリに積極的にとりくめるようになりました。アルブミンも改善傾向となりました。
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新しい義歯をつくる前は、咀嚼ができておらず、食事がクリームパンやシュークリームなどに偏り、全身の健康状態にも影響を与えていたと思われます。食べられることと噛めることは違うこと、他職種からの歯科治療のすすめは患者の背中をグッと押してくれること、口腔機能の改善が患者の健康に対する意識向上につながることをあらためて実感しました。
転院前の主治医に「歯を治して噛めるようになった」ことを伝えてほしいとAさん。その言葉を伝えたところ、「ありがとうございました。患者さんが元気になったことがいちばんうれしい」との返事が。
口腔の健康と全身の健康の関係性について、ひきつづき発信していく重要性を感じた症例でした。
※2=病的。1は不良、0が健全。
(民医連新聞 第1784号 2023年6月5日)