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民医連新聞

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フォーカス 私たちの実践 SDHの視点で療養環境を改善長期目標と情報を共有 多職種連携で包括的連続的な糖尿病ケア 長野・上伊那生協病院

 経済的理由により、適切な治療を受けることが困難で、糖尿病・腎障害の増悪をきたした患者が、入院をきっかけに病状への理解を深め、前向きに治療を受け入れることができました。この患者とのかかわりには、治療の他に多職種間の連携が必要不可欠でした。第15回看護介護活動研究交流集会で運営委員長賞を受賞した、長野・上伊那生協病院の唐澤ゆう子さん(看護師)の報告です。

 Aさんは50代男性。既往歴は高血圧症、高脂血症、糖尿病、十二指腸潰瘍手術、心不全、左中肺野索状影、CK高値。独居で、姉とキーパーソンである弟は近隣に居住しています。
 入院までの経過は、浮腫と目がかすむ症状の自覚がありましたが、経済的困難で健康保険証がなく放置。社協へ相談し、翌年の秋に当院へ受診。糖尿病性腎症によるネフローゼ症候群、肺水腫、胸水多量貯留所見がありました。B病院へ紹介、胸水穿刺を行い症状がやや改善しましたが、退院後の生活に経済的問題があり、本人の希望で当院へ入院となりました。

■症状悪化の背景

 入院時、浮腫著明であり、利尿剤・降圧剤の内服、酸素投与、減塩食、水分制限を開始。本人の希望でエアロバイクでの運動許可があり、自発的に実施する様子がありました。入院中、睡眠時無呼吸症候群の診断があり、夜間CPAP、内服自己管理も開始。治療が落ち着くと、退院後の生活に向けた準備もしていきました。相談員の介入にて生活保護の利用が決定し、リハビリスタッフ、相談員の付き添いで自宅を訪問。水道修理の必要性とローンの問題で、すぐには帰れない状態が判明しました。また、入院中栄養士による指導を3回実施し、食札を保存し「自分でつくりたい」とレシピを意欲的に見る様子がありました。
 インフォームドコンセントにて退院許可が。今回の入院では透析導入までは至らず、主治医より、内服・食事療法・CPAPの継続指示と、退院後は月1回定期的に受診の指示がありました。透析に対し、Aさんから「透析はやりたくない。食事を見直していきたい」と前向きな発言がありました。病状への理解、リハビリや、自主的な運動、栄養指導の受け入れは良好でした。相談員を中心に関係者会議を複数回実施し、姉弟の支援を得られるように環境を調整し、自宅へ退院の運びとなりました。
 治療で浮腫は軽減し、入院時より体重は30kg減っていました。退院後の定期的な外来受診では、自炊に励み、毎日の食事をノートに記録し続けているとのこと。
 糖尿病は病状の理解と自己管理が必要です。Aさんの場合は、経済的理由で受診をあきらめ、症状の増悪に至った社会的な要因も強く、本人だけの問題ではありませんでした。

■患者の背景を知ること

 Aさんは治療を前向きに受け入れていましたが、退院後の自宅の環境を整えることも必要でした。また、「CPAPに使う滅菌蒸留水は、お金がかかるから買えない。続けられない」という発言があり、Aさんの生活環境を考慮した上で、退院後の必要な治療の継続を見据える必要がありました。希望を傾聴すると、「運動がしたい」「飲水量を増やしてほしい」と、自発的なとりくみや食事への関心がみられ、意欲を引き出せたと考えられます。相談員を中心に、Aさんならではの経済的問題に配慮しながら、行政も交えて多職種間で会議を重ねて情報を共有し、退院調整をすすめました。
 患者には治療だけではなく、退院後の生活環境を整えることが必要で、看護師以外の専門分野のかかわりで退院後の生活が形成されていくことが学べました。
 看護学者の彦聖美氏らは「糖尿病は生活との折り合いをつけながら長期間にわたって療養するという特性を持ち、他の疾患以上に医療機関や医療職同士の『チーム医療』『共同診療』が求められる。そのなかでかかわる医療職は、長期的な視野に立ち、目標の共有をする、情報の共有をすることが重要」とのべています。
 看護の視点だけでなく、今後もとりくみを継続できるように、SDH(健康の社会的決定要因)の視点も必要です。患者の背景を知り生活環境を整えていくためには、多職種間のかかわりが重要だと学ぶことができました。

(民医連新聞 第1784号 2023年6月5日)