診察室から 通院、生活の「足」の確保を
私の勤務する寺井病院は金沢から南西へ車で小一時間、手取川を渡った能美市にあります。白山麓から日本海へ向かってなだらかに平野がひろがり、その多くは水田で、集落が点在しています。GW前後の時期は田植えのために田んぼに水が張られ、一面の水張り田となった光景を、当院を開設した故谷口堯男先生は「能美湖」と呼んでいました。病院の窓からも、訪問診察時も里山の新緑と水張り田の風景がとても美しく、天気がよければ、その向こうにまだ白い白山を見ることができます。
このような環境なので、地域内の移動には自動車が不可欠です。当院へ通院する人も多くは自家用車を利用しています。なかには自転車で通院するために天気の良い日しか受診できないと、次回の予約をしない人もいます。同じ集落の人に送ってもらうために、2人セットでの予約を希望する人も。
つい先日、長らく通院していた高齢の患者さんから、いよいよ通院が難しくなったので近医へ紹介状を書いてほしいと頼まれました。民医連の事業所がない市から20年通ってもらいました。一方それまで通っていたクリニックへタクシーで通うと高額なため、共同組織が運営するNPO法人の移送サービスを利用して当院へ転院したいという人も。
病状のために通院困難となれば、訪問診察という選択肢がありますが、通院のための「足」の問題はなかなか解決が困難です。SDH(健康の社会的決定要因)の重要なテーマのひとつです。
移送サービスは大変ありがたいシステムですが、高齢になっても働き続ける人が増え、ボランティアの運転手を確保することが困難となっています。
運転免許を返納する人が増え、今後通院手段の課題はますます重要になるでしょう。もちろん通院だけでなく、買い物など日常生活全般へ影響することです。安心して住み続けられる町をつくり、維持するために、共同組織や地域の人びと、可能なら自治体とも連携し、知恵を絞りたいと思います。(中内義幸、石川・寺井病院)
(民医連新聞 第1784号 2023年6月5日)
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