気候危機のリアル ~迫り来るいのち、人権の危機~ ⑩気候変動とお金の関係 文:気候ネットワーク
気候変動は世界の経済活動に大きな影響をおよぼし、COP27でも注目されたように「損失と損害(ロス&ダメージ)」(第8回で解説)の対策には巨額の費用が必要です。国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の試算では、温暖化を抑制するために温室効果ガスの排出量を2030年までに半減するには、最大で30兆ドルの投資が必要とされています。どこからこれだけのお金を集めるのでしょうか。
結局のところ、気候変動対策に必要な資金は投資家だけでなく、めぐりめぐって納税者や、消費者が負担することになります。世界各国では既に資金確保を目的とした多様な環境税が導入されています。日本でも2012年から使用する化石燃料のCO2排出量に応じた「地球温暖化対策のための税」が導入され、2024年からは森林整備などに必要な財源確保のための「森林環境税」の導入が予定されています。
問題なのは、地球温暖化を加速させる動きにも巨額の資金が流れていることです。化石燃料に依存する社会をつくり上げてしまった私たちは、既存の経済基盤・社会構造を維持するため、化石燃料の使用を拡大する事業や企業へのお金の流れを止めることができていません。パリ協定採択後の7年間(2016~2022年)に、世界の大手民間銀行60行が化石燃料に提供した資金の額は、5.5兆ドルにのぼることが報告されています。日本の3メガバンクもこの資金提供額ランキングの上位20に入っていますが、この事実は預金者にあまり知られていません。
それでも少しずつ変化は現れています。近年、気候変動はリスクであるとの認識がひろがるなか、化石燃料にお金を投じる銀行や環境対策を重視しない企業から、預金あるいは投資を引き揚げる「ダイベストメント」の動きが強まっています。気候変動や人権などさまざまな社会問題に対する企業の姿勢が、評価に影響するようになってきているのです。
他方、対話を通じて企業に、より環境を重視した戦略を求め、気候変動対策を加速させる「エンゲージメント」もひろがっています。自分がお金を預けている銀行や金融機関が化石燃料事業に投資しているなら、間接的ではあっても化石燃料事業をささえていることになってしまいます。自分のお金がどのように使われているかを意識し、預金者・顧客から声をあげていくことも、社会を動かす一歩です。(鈴木康子)
気候ネットワーク
1998年に設立された環境NGO・NPO。
ホームページ(https://www.kikonet.org)
(民医連新聞 第1784号 2023年6月5日)
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