相談室日誌 連載540 入院を機に見えた家族の孤立 地域社会でとりくむ課題(東京)
Aさんは60代前半の男性。十数年前の交通事故での内臓損傷が原因で、人工肛門を造設しています。適応障害を抱え自宅にこもりがちの生活でしたが、アルバイトを始めたところでした。同居家族に姉、弟がおり、姉は生計維持のためアルバイトを掛け持ちし、朝から晩まで働いています。弟は契約社員として働くもパニック障害があり、家族との会話はほとんどありません。
今回、Aさんは新型コロナに感染し、入院中に左大腿骨神経まひが出現し、手術後、リハビリ目的で当院へ転院しました。入院中にAさんは失職し、入院費の心配で姉と面談。借金があること、姉とAさんの国民健康保険料を分割で払っていること、生活保護の相談もしたが対象にならなかったことがわかりました。入院費は当院で実施している無料低額診療事業を申請し、経済的負担を軽減することができました。
また、Aさんは抑うつ傾向で、身体機能・精神機能ともに気分低迷時はリハビリができないことも多く、退院後の生活では車椅子や介護ベッドが必要と思われました。身体障害者手帳と障害福祉サービスの利用申請のため、姉へ手続きの案内をしましたが「私も忙しいんです。何で私ばっかり…」と思いを吐露し、協力は得られません。SWが自治体の担当課と連絡調整し、本人が申請書の記入(Aさんにとって氏名・住所の記入は数日を要する)をしました。障害福祉サービスの計画相談支援にあたる事業所探しは、Aさんの居住区では空きがなく、区ではそれ以上相談に乗ってもらえず難航しました。隣接区で引き受けてくれる事業所が見つかり、退院前カンファレンス後、自宅退院となりました。
Aさん家族はそれぞれが孤独であり、地域社会からも孤立しているなか、経済的、心理的問題を抱えていてもどうすることもできず、入院をきっかけにそれらの問題が表面化しました。地域社会からの孤立が生み出すさまざまな問題は、自助努力で解決することが困難で、社会の責任においてとりくむべき課題です。困っていることを発信できない人が、地域のなかで取り残されることなく、抱える問題を深刻化させないために、どのように地域でささえていくのか、支援のあり方が問われています。
(民医連新聞 第1783号 2023年5月22日)