民医連結成70th⑤ 平和憲法を絶対に守りたい 開設30周年に「9条の碑」を建立 京都 まいづる協立診療所
京都・まいづる協立診療所は昨年11月、開設30周年を記念して敷地内に、憲法9条の石碑を建立しました。「絶対に変えてはいけない」と石碑に深く刻んだ9条の全文。建立を実現させた職員と舞鶴健康友の会のみなさんに思いを聞きました。(丸山いぶき記者)
記念事業の目玉に憲法を
同診療所は1992年10月、地域の要求に応え、京都府北部で2番目、当時、府内最北の民医連診療所として誕生しました。
昨年、30周年を迎えるにあたり、「記念になにをしよう? 民医連の総会運動方針にも、今期最大の運動課題は“憲法を守る”とある。なにか憲法にかかわることをしたい」との職員の思いから、記念事業の検討が始まりました。
「そんな時、伊藤千尋さんの講演を思い出し、『これや!』と思った」と話すのは、同診療所事務長の稲次豊さん。同年1月、京都民医連新春の集いの記念講演で、国際ジャーナリストの伊藤千尋さんから、「民医連の事業所で憲法9条の碑を建てよう」と呼びかけがありました。それに応え、碑の建立と、テレビで会えない芸人・松元ヒロさんのソロライブを、記念事業の目玉とすることを決めました。
実現に向け、職員、舞鶴健康友の会会員、通院患者などに募金を呼びけると、7~9月の短期間で予想を上回る130人以上が賛同。60万円超が集まりました。
戦争の悲惨さ知る地域のささえで実現
なかでも、いち早く賛同し、たくさんの募金を寄せたのが、革新新興吟詠会舞鶴支部のみなさんでした。友の会会員でもある同会の池田貞子さんは、「私ら、戦争でどんなに苦労したか。食べ物がなくなり、ひもじくて親子抱き合って泣いた。勉強なんかひとつもしとらん。低学年は校庭に畑をつくり、高学年は学徒動員で兵器などを製造する工場、工廠(こうしょう)へ。空襲から逃れた防空壕(ごう)には、血を流した人、人。戦争の悲惨さを知る人が少なくなるなか、憲法9条はほんまに大事。新興吟詠会は、詩吟も文化も平和あってこそと、全国で9条を吟じて今年で45周年。そんな集まりがあることも知ってもらいたかった」と話します。
池田さんらは、昨年11月29日に行った9条の碑の除幕式でも、高らかに詩吟で9条をうたいあげました。看護主任の佐々木陽子さんは、「除幕式では大勢にお祝いしてもらい、患者さんとしてよく知っていた池田さんが、実は詩吟をしていることも今回初めて知った。地域の人に喜ばれる良いものができた」とふり返ります。
「舞鶴」の地に9条全文を
完成した石碑は縦57cm、横75cmの青御影石製です。作成した石材店からは「小学校も近いので、子どもたちが平和を考えるきっかけになれば」とうれしい言葉も。
碑が建つ舞鶴市は、120年以上の歴史をもつ軍港都市。いまも全国有数の海上自衛隊の拠点であり、福井県南部に居並ぶ原発にも隣接しています。所長の高塚光二郎さん(医師)は、「ウクライナのことがあって、北朝鮮などを考え、やっぱり日本も軍隊をもった方がいいという潮流、改憲や大軍拡の動きもある。でも、こうして碑に書かれた9条の全文を読むと、あらためて本当にこれは良い文章。絶対変えたらアカン、変えることがどういうことか、そもそも戦争とはなんぞやと考える。碑をつくるその過程が重要だった」と強調します。
医療の現場で語ろう
迫る「恐怖」をぬぐう憲法9条の価値
4月13日、北朝鮮から発射されたミサイルが「北海道に着弾の可能性がある」として、Jアラート(全国瞬時警報システム)が発令されました。「もし原発の上に落ちてきたらと考えると、平和な日常をいっぺんにひっくり返す現実に恐怖を覚えた」と話すのは、舞鶴健康友の会事務局員の渡邊加代子さん。舞鶴の隣町、原発が立地する福井県高浜町に住んでいます。
この春まいづる協立診療所に入職した小牟田要さん(事務)は、「ウクライナへの侵攻があって、自分の大切な人が、人を殺し、殺され、傷つけ、傷つけられ、大切な人をもつことが怖くなってしまうような日本になっていくようで怖い、つらいと、友人や家族と話した」と思わず涙。2年目の山田真生さん(事務)は、昨年末に生まれたわが子を思い、「妻とは、この子がどんな生き方を選んでも尊重しようと話した。誰にも生まれた瞬間から人権がある。その人の尊厳を守りたいという思いは、この先も変わらない」と話します。
すすむ軍拡その実態は
そんな一人ひとりの不安や思いをよそに、いま、大軍拡が推しすすめられています。「国会もマスコミも、軍拡はすでに決定事項で、その上で財源をどうするかという議論。そもそも、軍事費を拡大することの是非の議論がないことがおかしい」と渡邊さん。
事務長の稲次豊さんは、「大軍拡で長距離射程ミサイル、トマホークの購入が決まり、それを搭載するイージス艦が舞鶴に2隻もある。なにかあれば真っ先に攻撃対象になる。だからこそ、海上自衛隊舞鶴地方総監部を地下化して“強靱化”する工事が、24年度にも始められようとしている」と指摘します。診療所から車で10分ほどの場所に位置する舞鶴東港には、常にものものしい海上自衛隊の灰色の艦船が、何隻も停泊しています。舞鶴地方総監部は住宅街に隣接しており、すぐそばに福祉を担う公的機関の複合施設もありますが、基地を守っても、住民を守る策はありません。
「軍隊ではない」「戦力ではない」と強調される自衛隊の深刻な実態も垣間見えてきます。所長の高塚光二郎さんは、診療所の近隣に住む自衛隊OBから、心を病み自殺する隊員を念頭に、半年におよぶ訓練航海の最後に「絶対に死ぬな」と鼓舞するのだと聞きました。友の会会長の迫田薫さんは、「いま、一見勇ましく、軍拡を叫ぶ若い世代は、戦争をイメージできていない。運動でブレーキをかけなければ」と強調します。
げんこつをあげず対話で信頼を勝ち取る
「私たち医療従事者は、究極的にはいのちを守りたい。そのためにまず健康を守る。ただ、民医連綱領にもある通り、戦争が起こればすべてを破壊する。そのことを診療の現場でも伝えなければ」と高塚さん。30周年記念事業で招いた芸人・松元ヒロさんの言葉を引用して、あらためて訴えます。
「相手がげんこつあげて、こっちもげんこつをあげたら、ケンカになる。ところが、まあまあまあ、話しようやないかといさめれば、相手もげんこつをおろす。日本は絶対にげんこつをあげない、とにかく話し合って戦争をしないと信頼してもらえれば、相手も安心、こちらも安心。だから、軍事費は上げるべきではない。9条があるんやから」。
「今回の碑の建立の背景には何より、ここが良い診療所で、高塚先生も良い先生という信頼があった」と迫田さん。稲次さんは、「私たちは診療所主導で友の会の協力のもと短期間で実現したが、運動をひろげるために時間をかけて大きな9条の碑をつくる方法もあると思う。今の情勢のもとスピード感をもって、というのもひとつの考え方」と、続く全国の仲間に期待を寄せます。
(民医連新聞 第1782号 2023年5月1日)