これでばっちりニュースな言葉 過度な競争・いじめが不登校を助長 教員の過酷な労働も子どもに影響 こたえる人 全日本教職員組合 副委員長 波岡 知朗さん
文部科学省(以下、文科省)が昨年10月に公表した調査結果で、小中学校での不登校が2021年度に24万5000人と過去最多になりました。今、小中学校の現場で何が起きているのか、全教(全日本教職員組合)副委員長の波岡知朗さんの解説です。
文科省が2022年10月に公表した「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」で、小中学校での不登校が2021年度に24万5000人と過去最多になったことが判明。学校や社会に衝撃的な現実を突き付けました。1000人あたりで25・7人、小中学校1クラスに1人はそうした子どもがいる計算です。
■過度の競争回避を国連勧告
文科省は要因を「学校(21・2%)」、「家庭(12・3%)」、「本人(61・4%)」に分類し、本人の問題、特に「無気力・不安(49・7%)」のせいにしようとしています。しかし、前年に行った「2020年度不登校児童生徒の実態調査」では、直接子どもに聴き取りした結果、「最初に学校に行きづらいと感じ始めたきっかけ」(複数回答)は「先生のこと」(小学生30%)、「身体の不調」(同27%)、「生活リズムの乱れ」(同26%)の順でした。二つの調査結果の違いは、21年度の回答が教員(学校)によるものであったことから生じたとみられます。やや厳しい言い方になりますが、教員(学校)が子どもの思いを受け止めきれていないのかもしれません。「不登校」は、子どもたちが学校を拒否する「登校拒否」ととらえる必要があります。日本政府に対する、国連子どもの権利委員会「総括所見」(2010年)で、過度な競争がいじめや不登校を助長する可能性があり、過度の競争で引き起こされる悪影響を回避するために、学校制度や教育制度を再検討するよう勧告されている点からも、抜本的な解決が求められています。
■求められる教職員の増員
いま学校は教職員にとって子どもと向き合うゆとりのない、とても厳しいものとなっています。
全教が行った「教職員勤務実態調査2022」では、教員の時間外勤務の平均が、厚労省の過労死ラインをはるかに超える月96時間10分という過酷な実態が明らかになりました。その要因は、勤務時間内で処理しきれないほど多くの業務や、勤務時間のほとんどが、子どもの指導や会議、打合せなどにあてられ、授業準備などは時間外にやらざるを得ず、家に持ち帰って行うことが常態化している点にあります。部活動は多忙化の一因ですが、部活動顧問をしていない教員も持ち帰り仕事や長時間労働が多いことがわかりました。教職員を大幅に増やして、1人あたりの業務量を縮減することがとても重要です。全教が求めている「給特法改正」もその改善につながる方向で国に求めています。
また、全教が2月に発表した「教育に穴があく(教職員未配置)」実態調査で、24道府県4政令市で1642人の教職員未配置が生じている深刻な実態が明らかになりました。調査を行った5月と10月の結果を比較すると1・6倍に増加。時間とともに教職員不足が増えていくという厳しい実態があります。特に、産休・育休や病休の代替が見つからないことが大きく増加しています。教職員が安心して休めない、子どもたちに授業を十分に保障できないなどの問題が深刻化しています。
■子どもの実態に寄り添う
コロナ禍を「利用」して一気にすすめられた「GIGAスクール構想」によって、「教育のICT化」がものすごい勢いで加速しています。子どもたちもついていくのに精いっぱいという状況が見られます。公費負担で導入した「一人一台端末」も次回更新時には私費負担になる懸念があり、保護者の教育費負担が増加するおそれがあります。教育のデジタル化は、貧困と格差による学校や家庭、地域の教育格差をひろげ、公教育の機会均等が保障されない事態につながるおそれがあります。
日本の教育は新自由主義政策に取り込まれ、財界・大企業の求める「グローバル人材」育成に資する学校教育を強く押し付けてきています。そうした流れに抗して、子どもたちの実態に寄り添い、子どもや保護者の声を聴き、子どもの成長と発達を保障することが、何より大事なことです。
(民医連新聞 第1782号 2023年5月1日)