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民医連新聞

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憲法カフェ ぷち 拡大版 座談会 世界で最先端の憲法を楽しくひろげよう

 5月3日は憲法記念日。憲法と人権について、連載「憲法カフェ ぷち」を執筆する「明日の自由を守る若手弁護士の会」(通称:あすわか)弁護士と民医連職員が話し合いました。(多田重正記者)

身近に起こった人権問題

片木 人権を保障するためにあるのが、憲法です。でも、実際には「人権が守られていないな」と感じることがありませんか。
 僕は昨日、生活保護を受けている人から「入居している施設の人に通帳を預かられて、保護費を1円も渡してもらえない」という相談を受けました。「衣食住を提供するから」と、お金をとられるんです。
 市のケースワーカーに電話したら「施設と本人の間の話だから」と動く気がなくて、「それでいいのか」とやりとりになりました。

國松 私も今朝、生活保護を受けているシングルマザーから相談を受けました。物価高で、電気代が上がっているのに、保護費は増えない。だから、この冬は一度も暖房を使わなかったそうです。
 生活保護は憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するためにあるのに、最低限度以下の生活を強いられている。

片木 物価高は深刻ですね。僕もいつも買うヨーグルトが138円から192円になってびっくり。

國松 私もよく食べるカップラーメンが、168円から200円以上になってショックです(笑)。低所得者ほど、影響が大きい。

渡邊 私の事業所では今年冬、訪問看護でかかわっていた高齢者が電気を止められて、低体温症で亡くなりました。地域包括支援センターが介入し、電気を復旧した翌日に訪問したら、亡くなっていたんです。認知症があり、難しいケースでしたが、「もっと私たちにできることはなかったのか」と悔やまれます。

岩隈 うちの診療所では、新型コロナウイルス感染症の第5波(2021年7~9月ごろ)の時、周辺に発熱外来のある医療機関が少なく、発熱外来の受診を希望する電話が集中しました。「これで10件目です。診てください。死んじゃいます」などの電話が、朝から夕方まで殺到して。受け入れにも限界があるので、断る場面もありましたが、「死ねと言うのか」と責められたりして、つらかった。
 コロナ病床も不足したため、入院できなかった陽性患者全員に電話をかけ、無事を確認する日々が続きました。無我夢中でしたが、第5波が落ち着いてから職員間で「国がもっと対応してほしかった」という話になりました。

税金の使い方にも問題が

國松 こういったいろいろな問題が起こる原因には、そもそも税金の使い方が悪いせいもありますよね。保健所を大幅に減らしたために、新型コロナの対応がさらに困難になったわけですから、対症療法ではなく、いのちや生活に直結するところを手厚くしないと。

片木 学校や保育園などの問題もそうですね。「施設を改修してほしい」とか、「保育園を増やしてほしい」というと、国や自治体は「赤字だから」と収支を問題にする。
 その割に、オリンピックにお金をつぎこんだり、1機100億円する戦闘機を100機以上も買っちゃったりするからね。

國松 そうそう。足元の生活をよくしてくれる方が、国にとっても国民にとってもいいと思います。

片木 冷静に考えれば、軍拡ってどんなにやっても相手も軍拡することになるので、安心できる状況にはならない。今、危機感だけがあおられて、「軍事費を増やした方がいい」と国民の多くが漠然と思わされているのではないでしょうか。「社会保障費や教育費を削ってでも軍事費を増やした方がいいですか」と聞き方を変えれば、賛成する人は減りますよ。

ロシアのウクライナ侵攻で戦争がリアルに

國松 軍拡といっしょに、憲法を変えようとする動きもさかんです。お二人は、ふだん憲法のことを話しますか?

岩隈 正直なところ、3~4年前までは話しませんでした。もともと民医連ではない医療機関にいたこともあり、「なぜ医療と憲法が結びつくのだろう」と思っていました。沖縄で行われた看護管理者研修(2019年)で基地問題や沖縄戦のことを現地で学び、徐々に変わってきた感じです。ロシアのウクライナ侵攻も大きいですね。それまでは、戦争のリアルさが、自分のなかに欠けていたと思います。

渡邊 私も同じです。ウクライナ侵攻がきっかけで、「私が戦争に行ったら、子どもが泣いちゃうだろうな」と考えるようになりました。学習会はたくさんありますが、自分のこととしてとらえていたかというと、弱かったと思います。

岩隈 職員にも憲法の学習会などへの参加を呼びかけますが、なかなか難しいです。どうしたら自分事としていっしょに関心をもってもらえるのか、考えています。

片木 生活も仕事も余裕がなく、考える時間もない人が多いのかな。それでも学習会に来てもらえるような工夫をしたいですね。
 「あすわか」で、楽しく学習できるカルタやボードゲームをつくったんです。学習って、座って話を聞くイメージで、つまらないことが多いから。しかも学習会って、参加者の半分以上がもう学習している内容だったりする(笑)。

國松 人権とか、憲法とか、日常的に出てくる言葉じゃないので、アレルギーがあるのかも。

渡邊 学んで来なかったことが、大きいと思うんですよね。権利と言われても、自分にその権利がないと思っていたり。日本は主権者教育がほとんどないですから。
 成功体験がないのもあると思います。民医連は、署名にとりくむ機会がたくさんありますが、成果がわからない。署名運動などを通じて、小さな成果を確認しながら、「自分には権利があるんだ」「こうすれば社会を変えられる」ということを、実感してもらえる職場づくりをしなければと思っています。

「個人として尊重」を掲げる憲法13条

渡邊 ところで、自民党の改憲草案(2012年)のことで、聞きたいことがあります。憲法13条が「すべて国民は、個人として尊重される」としているのを、改憲草案はわざわざ「人として」にしていて、違和感があるんですよね。一人ひとりを、同一の種としてひとまとめにするようで。
 介護現場では利用者の個別性をすごく大事にするので、改憲草案の中身が自分のなかに落ちてこない。LGBTQや多様性と言うときも一人ひとりを大事にしますよね。みなさんはどう感じますか。

國松 私も同じ違和感がありますね。「個」人になっているのは、一人ひとりが人権の享有主体だという点に、フォーカスしているから。

片木 「個」をなくすのは、個人を尊重しない宣言と同じです。

渡邊 人をひとまとめにして、国が管理したいのかなって感じます。

國松 選択的夫婦別姓も、実現してほしい。実は私、ずっと旧姓を名乗っていて。國松という姓は私のアイデンティティーで、それが失われたことが切なくて。強制的に一つの姓を選択しなければいけない制度そのものが、個人の尊重に反している。婚姻届を出した人たちのうち、96%が男性の姓に合わせています。両性の平等(第24条)の観点からも、はやく別姓を選択できるようにしてほしい。

社会の変化に自信を持って

片木 今後、改憲の動きは加速すると思います。選挙で、改憲発議に必要な衆参両院3分の2の議席を改憲派が下回るようにしたり、国民投票になっても改憲案が通るメドが立たないような状況をつくっていくことが大事ですね。

渡邊 憲法の問題をどうひろげていけばいいのか難しい。民医連外の事業所ともつながりがありますが、憲法と言うと「ふーん」みたいな(笑)。

片木 憲法って生活に密着したもので、学ぶと意外と楽しいんですよ。日本の憲法は、もっていて当たり前の権利をすべてそろえた、世界で最先端の憲法ですから(昨年11月21日号5面「憲法カフェぷち(16)」参照)。

岩隈 自分らしく前向きに生きることをささえるのが、憲法だってことを伝えていけばいいのかな。

國松 以前なら問題にされなかった、選択的夫婦別姓やLGBTQの人の権利なども、取り上げられ、注目されるようになってきました。憲法のめざす方向に、日本の社会も少しずつ変わってきていると思います。これからが楽しみですね。


「大軍拡ハンタイ ザ・ムービー」

 全日本民医連は憲法の大切さや軍拡の危険を伝える短編動画5本を作成し、HPに掲載。活用を。

(民医連新聞 第1782号 2023年5月1日)