フォーカス 私たちの実践 多職種、家族との信頼で在宅復帰をささえる COVID-19により重症肺炎になった患者の在宅復帰までのケア 東京・千石にじの家(東京保健生協)
コロナ禍では、新型コロナ感染後、自宅や施設での生活に困難を抱える高齢者が多数生まれました。東京・千石にじの家では、そうした人を多職種の協働でささえてきました。第15回看護介護活動研究交流集会で、運営委員長賞を受賞した田中邦彦さん(介護福祉士)たちのとりくみです。
千石にじの家は、看護小規模多機能型居宅介護事業所です。看護小規模多機能型では、通所介護を中心に、宿泊や訪問介護、訪問看護の計4つのサービスを提供しています。月額で必要に応じて利用できる地域密着型サービスです。
■感染と入院で機能低下
Aさんは86歳の女性。独居でサービス開始時は要介護4。疾患、既往はCOVID―19による重症肺炎、肺炎後遺症、慢性呼吸不全、高血圧、うつ病、認知症です。入院前は要介護1、ADLは自立で、他法人の訪問介護サービスを週1回利用していました。キーパーソンは都内在住の長男。
Aさんは2021年1月にCOVID―19に感染し入院。入院中はせん妄や暴力行為があり、抑制着を装着されました。移動は車いす、排せつは全介助。ADL、認知機能ともに低下し、退院後は在宅酸素管理が必要になりました。
生活に不安があり、独居生活の継続を目標に、退院後すぐの同年3月26日から、当施設の利用を開始しました。サービスプランは毎日の通いで、送迎は訪問介護を利用し、夕食を食べてから帰宅。週末は2泊3日の泊まりを利用し、疾患管理は月に1回以上の訪問看護利用と、退院した病院への定期通院、訪問診療で行いました。
■多職種で評価と情報共有
Aさんのケアで一番の課題は排せつで、特に夜間帯の尿失禁、オムツ外しやオムツ破り、脱衣行為をくり返し行うため、自宅に泊まって平日にケアをする息子と娘が疲へいしていました。当施設での泊まり時も同様の行為が多かったため、夜間の排せつリズムの調整を中心にケアを実践しました。
介護では毎日の通いで生活リズムを整え、夜勤の職員が排せつのタイミングを細かく記録。通いでは生活リハビリやレクリエーションで、他の利用者とのコミュニケーションを促して、認知機能の向上をはかりました。看護はハイサンソやボンベの管理や対応、眠前薬の服用のタイミングを試行錯誤しました。さらに職員間だけでなく家族や医療機関とも情報共有をはかり、手順を統一しました。
Aさんはケア開始後、数回目の泊まりからオムツ破りや脱衣行為がなくなり、尿意があればポータブルトイレや通常のトイレを利用し、日中の失禁もほぼなくなりました。移動は車いす介助から最終的には歩行見守りになり、自宅近所のコンビニへ一人で買い物に行けるようになりました。呼吸状態は「安静時には酸素をオフにしてもよい」と、医師の診断が出るまでに改善。ADLや認知機能は入院前の状態まで回復し、Aさんは同年7月末に当施設を卒業しました。
■継続性と連携が重要
本事例で退院後すぐのサービス開始でも、混乱や拒否なく受け入れられたのは、通い、送迎、訪問、泊まりと、すべてのサービスを同じ施設で実施している看護小規模多機能型だからこそと言えます。
毎日の通いで生活リズムが安定し、他者と接することで緊張感が生まれADLや認知機能が向上。多職種でアセスメントとケアを実践し、それを家族とも共有して自宅で同様に対応できたことで、排せつと睡眠のリズムが整ったと考えます。また看護師が身体の状態観察や対応を行い、医療機関と連携して疾患を管理できたことで、約4カ月の早期回復に至ったと思われます。短い期間でしたが、最終日にAさんからは「お世話になりました」と、笑顔で感謝の言葉をもらいました。
本事例を通じ、職員も自分たちのケアに自信が持てるようになりました。これからも当施設ならではの、介護と看護の協働のサービス提供をしていきたいです。
(民医連新聞 第1782号 2023年5月1日)