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民医連新聞

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いのち最優先の政治へ 医療保険制度の抜本的改善を 全日本民医連の2つの調査から

 全日本民医連は、3月20日に都内で記者会見。75歳以上対象の後期高齢者医療制度に患者2割負担が導入されたことに関するアンケート調査の結果をまとめ、公表しました。続けて3月29日にも民医連加盟事業所(病院、診療所、歯科の計703事業所)で直面した、経済的理由によって医療を受けられず手遅れとなった事例(2022年1~12月)をまとめて記者会見。2つの調査から見えてきたことは。(多田重正記者)

75歳以上2割化アンケート
切迫した高齢者の姿が浮き彫りに

 20日公表の「75歳以上医療費窓口負担2割化実施後アンケート調査」は昨年12月~今年2月、全国の民医連加盟事業所を通じて、患者・利用者など1万5368人が回答。会見では、75歳以上でかつ1割から2割負担になった7615人のまとめを報告しました。
 医療費の負担感を聞いた問いへの回答は、高齢者の生活の苦しさを色濃く反映したものでした。2割負担実施前の「とても重い」「重い」あわせて58%が、実施後は81%に激増(図1)。「1回の支払い金額を分割で支払っている」「他(医療費以外)を削るしかないが、方法が見つからない」などの声が。「受診回数を減らすつもり」「リハビリなどを減らそうか考えている」との声がある一方、「金はいのちに変えられない」「受診回数や薬を減らすのは不可能」などの声もあり、医療を受ける権利が脅かされている実態が浮き彫りになりました。

「受診できなくなる」との声も

 2割化による受診動向の変化について聞いた質問(複数回答可)では、「今まで通り受診する」は79%にとどまり、「受診をためらうようになった」が14%、「受診回数・薬を減らす」が11%(図2)。食費、交際費、水光熱費などを削ったり、貯金を切り崩すなどの回答のほか、「これ以上、切りつめられない」が14%、「このままでは受診できなくなる」との回答も11%ありました。「今まで通り受診する」と答えた人も、39%が同時に(2)~(10)を選択し、生活費や医療費を切りつめたり心配しながらの受診であることがわかりました。
 さらに深刻なのが3年後。2割化にあたり、国は患者負担増を3000円以下に抑制する「配慮措置」をとっていますが、2025年9月末までの時限措置です。3年後を予想して受診できると思うかどうか聞いた問い(複数回答可)では、「今まで通り受診できると思う」と答えた人は58%にすぎず、「受診できなくなるかもしれない」が16%、「受診回数・薬を減らすと思う」が27%。「受診できなくなると思う」という回答も2%ありました(図3)。
 岸田文雄首相が議長をつとめる全世代型社会保障構築会議の報告書(昨年12月)は、「増加する高齢者医療費について、負担能力に応じて、全ての世代で公平に支え合う仕組みを構築する」としていますが、すでに能力を超えた負担増が高齢者を襲っています。

手遅れ死亡事例調査
経済的困窮がいのちを奪う

 29日に報告した「2022年『経済的事由による手遅れ死亡事例調査』」結果では、生活困窮で医療費や保険料が払えず、手遅れとなっていのちを奪われた46事例のまとめが示されました。そのうち、資格証明書、無保険など、保険証を持っていなかったケースは24事例でした。
 ひとり暮らしのAさん(50代女性)もその一人です。4年前に父が他界した際、税金や保険料の滞納、借金があることが発覚しました。母は老健入居中でしたが、年金は月6万円で、入居費用を払いきれないため、Aさんがホームセンターで働いて得た収入(非正規)でささえていました。
 そこにコロナ禍が。シフトが減少し、収入も減りました。体調の不調を自覚しながらも保険証がなく、医療費の支払いも不安で我慢していました。
 民医連がかかわった生活相談会を訪れたことを機に、無料低額診療事業の説明を受けて受診し、心臓の異常が判明。精密検査が必要となりましたが、民医連事業所では対応できなかったため、国民健康保険法44条(患者負担の減免)の適用を行政に申請し、国保証を受け取って、他の病院で検査を受けることになりました。
 ところが検査当日、Aさんは姿を見せません。翌日、親戚と警察が窓を壊して自宅に入ったところ、亡くなっていました。
 Aさんは国保証を手にしたその日、遠方の兄弟に電話で「生協の人たちがよくしてくれて、保険証もあるし、医療費もかからなくってすむって。ちゃんと病気を直して元気になるね」と話していました。

保険証があっても手遅れに

 残りの22事例は、保険証を持っていても、手遅れとなったケースです。
 50代女性のBさんには、子どもが2人。国保証を所持。初婚の男性とは家庭内暴力、次に結婚した男性もギャンブルに給与をつぎ込んだことが理由で離婚し、シングルマザーに。Bさんは、ホテルのベッドメイキングの仕事をしていましたが、業務中にぶつけた手首が回復せず、痛みがとれないため就労できなくなり、無職となっていました。
 受診する2~3カ月前から、腰部・臀部(でんぶ)の痛みを我慢していたBさん。子どもたちが泣きながら受診するよう訴えて、ようやく無料低額診療事業をしている民医連事業所を見つけて受診しました。しかし、すでに末期がんで、1カ月後に他界しました。
 この他にも、「肺小細胞がんが見つかり、化学療法を行っていたが、経済的理由から治療を中断していた70代男性(国保)」や、「1日20回以上の頻尿があったが、経済的に余裕がないため、市販薬でごまかしていた80代のがん患者(後期高齢者1割負担)」など、痛ましい事例が並びました。
 死亡原因の69%ががんで、受診時にはすでに状態が悪く、手術もできないなど、治療困難の事例が目立ちました。

社会保障制度の改善税金の再配分を

 調査をまとめた全日本民医連理事の久保田直生さんは、記者会見で、「(46の死亡事例は)氷山の一角。医療機関にかかれずに亡くなった人も多いのではないか」と話したうえで、現在の国民健康保険や後期高齢者医療制度では、保険料が高すぎ、生活困窮で保険料が払えないことが「無保険」の原因となっており、「医療をあきらめさせる、決定的な要因となっている」と指摘しました。さらに、「正規の保険証を持っていても、窓口負担が経済的困窮者を受診から遠ざけている」と指摘し、「窓口負担はなくすべき」と強調しました。
 高齢者の受診抑制をひろげないため、少なくとも後期高齢者医療制度の2割負担を1割に戻すことも急務です。誰もが受けられる生活保護制度への改善や、すべての対象者に国保証を発行し、無保険をつくらないことも必要です。
 岸本啓介事務局長は「国民生活の現状をリアルにとらえ、いまの国民の困難にかみ合う社会保障、税金の再配分を行うべき」と訴えました。現役世代も高齢者も、そして子どもたちも含めて、すべての人が安心して医療を受けられる社会に向け、政治のかじを切るときです。

(民医連新聞 第1781号 2023年4月17日)