相談室日誌 連載537 障害のある身寄りなき患者 代弁者としての医療支援(鹿児島)
Aさんは50代後半の男性。呼吸困難感を主訴に当院に救急搬入され、うっ血性心不全で入院となりました。聴覚障害があり、コミュニケーションは、手話および筆談で行います。月の半分を県外の友人宅で生活。残り半分は、日雇いの仕事、ボウリング大会参加のために鹿児島のホテルで過ごしていました。10年前に妻と離婚し、子がいるものの疎遠で、身寄りがない状況でした。
入院翌日、「保険証は失くした」とのことで、SWが介入。友人宅の住所の役所に再発行をお願いするも、「住所登録がない。国民健康保険資格も喪失扱いとなっている」と。友人に問い合わせると、「ここには住んでいないことになっている」と言われ、その後一切連絡がとれなくなりました。いったん喪失扱いになっているため、役所からは、「Aさんが戸籍謄本、付表を持って役所まで来れば、住民票をつくることができる」との回答。心不全で入院中のため県外に行けず、オンラインで意思確認し、郵送での申請を何度も交渉しましたが、許可が得られませんでした。
入院から5日目、再度本人と面談し、友人宅を住所にすることはあきらめ、鹿児島のホテルを住所にすることに。医療費負担軽減のため、保険証作成について、入院日までさかのぼれるように市と交渉するも、「ホテルで生活をしていた根拠がない」と許可が得られませんでした。
入院から10日目、本籍地から取り寄せた戸籍謄本、戸籍付表、ホテルに届く携帯電話会社からの請求ハガキを添付し、本人とともに市と再度交渉。粘り強く交渉した結果、入院日からの住民票登録、保険証の効力が認められました。保険証発行後、Aさんは、安心して心臓カテーテル検査を受け、現在も当院に定期通院をしています。
これまでAさんは、賃貸住宅に住みたくても、保証人や支援をしてくれる人がいないため、契約をあきらめていました。
Aさんのような、身寄りがなく障害のある人が、基本的人権を守られた生活を送るには、多くの課題があるとあらためて感じました。私たち医療従事者はこのような困難事例に対して、患者とともに、または代弁者として行政、地域に訴え続けていくことが大切だと思います。
(民医連新聞 第1780号 2023年4月3日)
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