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民医連新聞

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現場のモヤモヤ みんなで共有 石川・城北病院 拡大倫理委員会

 患者や利用者のいのちや健康にかかわる現場では、多くの倫理の課題に直面します。こうした問題を考えるため、石川・城北病院では、外部の有識者や他事業所の職員を交え「拡大倫理委員会」を開催しています。(稲原真一記者)

受療権は守られたか

 2月15日、第45回を迎えた拡大倫理委員会のテーマは「コロナ軽症患者は入院できない!」でした。城北病院の院長で、倫理委員会の委員長でもある大野健次さん(医師)が、自身が対応した症例からこのテーマを決めました。
 この日の参加は26人。同委員会委員の北崎美穂子さん(SW)の司会で、今回の目的や第8波までのコロナ禍の状況をふり返りました。同じく委員の鈴木千尋さん(看護師)は、城北病院でのコロナ対応の変遷を説明。個室のHCU2床で中等症を受け入れ、発熱外来も積極的に対応したことを紹介しました。2022年8月以降は原則入院がなくなり、入院には県への連絡が必要なことや、70歳以上はホテル療養ができない県内ルールがあること、院内の重症度基準も示しました。

多様な視点で討論

 討論の中心となる3事例を、職員が報告(表)。事例に共通するのは、「コロナ陽性だったことで、かえって入院が困難になった」という点です。職員からの説明が終わると、外部委員を交えた討論が始まります。この日の外部委員は4人で、宗教家、弁護士、友の会会員が参加しました。
 宗教家の鳥越純丸さんは、「医療が行政に組み込まれ、本質がゆがめられていると感じた。必要な人が安心して入院できない状況はおかしい。市民と職員が、いっしょに声をあげることも必要では」と提案しました。
 弁護士の宮西香さんは、認知症の母と同居しながら、自身がコロナ陽性になった経験も重ね「私も母を置いて入院できるのか、誰が母のケアをするのか不安だった」と発言しました。
 友の会会員の杉本由紀枝さんからは、コロナ禍での在宅や訪問のサービスへの質問が出され、鈴木さんが回答。感染対策ができるヘルパーが少なく、日常生活に困難がある実態を共有しました。
 弁護士の渡邊智美さんは「感染の落ち着いた今こそ、医療や介護の関係者で集まり、問題を洗い出して今後の対応を見直してほしい」と要望しました。
 城北クリニックの西村結さん(事務)は、「城北病院に入院できると思っている患者を断ることが一番きつかった」と、率直な心情を吐露。研修医の石井宏和さんは、「十分な在宅サービスやコロナ病床があれば、悩まずに対応できたのではないか」と、医療や福祉体制の矛盾を指摘しました。
 最後に大野さんが「5類移行で世間との意識の差はひろがるだろうが、今日の討論で少しすっきりしたのでは。次回もぜひ参加してほしい」と締めくくりました。

現場任せにしない

 城北病院では、2006年頃に倫理委員会の開催を、年1回から毎月開催に変えました。大野さんは「現場で解決できない倫理課題を、病院が責任を持って対応する体制が必要だった」とふり返ります。その後、臨時の倫理委員会も機動的に開催するように。副院長の柳沢深志さん(医師)は「現場の難しい倫理課題を、すぐに相談できるようになり、集団的な議論で決めるので、安心して働けるようになった」と言います。
 一方で、医療従事者だけでは判断を誤ることもあるとの問題意識から、社会の価値観を取り入れる場として、2008年頃に拡大倫理委員会を開始。年3回の定期開催をしています。北崎さんは「外部委員の発言に、ハッとする職員も多い」と言います。
 「コロナ禍では、県ごとに異なる対応などに矛盾を感じた」と大野さん。コロナ対応には苦慮する現場職員が多く、こうした身近なテーマは人もよく集まります。「一人で決めず、みんなで考えることが、職員にとっても患者にとっても、安心の医療につながる」と意義を語ります。


表 検討事例

①男性(70代)、妻と二人暮らし。嘔吐(おうと)で受診しコロナは軽症だが、既往症の統合失調症が悪化。家族からは強い入院希望があるが、入院できず。
②男性(90代)、認知症の妻と二人暮らし。糖尿病をインスリン自己注射で管理。脳梗塞を発症し入院を検討したが、コロナ陽性が判明。濃厚接触の妻が入る施設がなく、在宅で経過観察に。感染対策に対応できる訪問看護を頼り、2週間後に入院し、その後軽快。
③男性(80代)、独居。発熱外来受診でコロナ陽性。軽症だが難聴があり、自宅療養や電話での行政とのやりとりに不安がある。県の独自ルールでホテル療養ができず、地域包括支援センターにつないで見守り。

(民医連新聞 第1780号 2023年4月3日)