民医連結成70th③ いのちの水を汚したのは誰か 有機フッ素化合物汚染問題の実相解明を 東京・健生会
東京都多摩地域で、水道水に使われる地下水が有機フッ素化合物(PFAS)で汚染されていることがわかり、問題になっています。「多摩地域の有機フッ素化合物汚染を明らかにする会」(以下、「会」)は1月30日、都内で記者会見。国分寺市の2会場で行った血液検査の結果、受検者87人中74人が4種類のPFAS(PFOS、PFOA、PFHxS、PFNA)の合計で、アメリカでは「特別の注意」を要するとされる20ng/mL以上に達したことを報告しました。東京・健生会は、被害者に寄り添い、実相を解明しようと動いています。(多田重正記者)
衝撃の検査結果
「衝撃だった。高濃度を予想していたが、事実を突きつけられてたじろいだ」と会見で語ったのは、国分寺市在住の中村紘子さん(80)。昨年12月、健生会の国分寺ひかり診療所で検査を受けました。血中濃度はPFOSが全国平均(環境省2021年調査)の6・6倍、PFOAは4・5倍、PFHxSは29・8倍に達しました。
中村さんが45年住んできた地域にある東恋ヶ窪浄水所は、PFASによる汚染で2019年6月、井戸からの取水を停止。昨年末の健診で腎臓の値が悪化した中村さんは、PFASとの関連性を疑っています。
同じ会見で、結果の分析にあたる京都大学准教授の原田浩二さんは「国分寺市からの参加者(65人)の血中濃度は、性別や年齢の影響を加味しても、環境省調査より明らかに高い」と語りました。
広範囲で地下水が汚染
PFASは水や油をはじき、熱や光に強く、自然には分解されない物質です。泡消化剤やフライパンのテフロン加工、撥水(はっすい)スプレー、半導体の製造などに使われてきました。しかし腎臓がんや前立腺がんのリスク、低体重児、発達障害、脂質異常症、甲状腺機能障害、ワクチンの免疫低下など、健康への影響が指摘され、欧米では規制されています。ところが日本は「PFOS、PFOAの合計で50ng/L」という数値を水道水の目標値としているだけで、規制基準はありません。健生会理事長で、「会」共同代表の草島健二さん(医師)は「東京都は2005年から多摩地域の地下水の汚染を把握していた。しかし公表せず、汚染源も特定せず、対策も講じなかった」と指摘します。
横田基地でPFASが漏出
汚染源は不明ですが、有力視されている一つが、福生(ふっさ)市や立川市など、5市1町にまたがる米軍横田基地です。2018年にジャーナリストが「PFASを含む泡消化剤が同基地内で土壌に漏出(2010~2017年)していた」と報じました。都は、直後に横田基地周辺の井戸を調査し、高濃度のPFASを検出。その後2021年5月までに、PFASによる汚染で取水を停止した井戸は、立川市、府中市などをあわせた7市11浄水施設34カ所におよびます。米軍は他の基地でも消火訓練などで泡消化剤を使い、漏出事故も起きています。沖縄では、米軍基地周辺の河川や浄水施設からPFASが検出されています。
福島県出身の中村さんは、記者の取材に「第一の故郷・福島は原発事故で犯され、第二の故郷もPFASで犯された。大地を取り戻してほしい」と訴えました。
汚染源の特定と対策を
「会」は3月末までに約600人の検査を実施する予定で、健生会など東京民医連三多摩ブロックの事業所も協力。「健生会は、被ばく者、水俣病、アスベスト被害、東京大気汚染などの課題で患者に寄り添ってきた。実態を明らかにし、被害者の健康不安に応えることは民医連の使命」と草島さん。健生会は4月以降、PFAS相談外来を開設予定で、専門家や法人外の医師と協力し、診療マニュアルも作成中です。当面は600人の受検者のうち希望者を対象とします。
草島さんは「調査は始まったばかりで、わからないことも多い。専門家、住民、基地やPFAS汚染問題を抱える他県の民医連とも連携し、行政に汚染源の特定や対策を迫り、健康被害を防ぐとりくみをすすめたい」と語りました。
(民医連新聞 第1779号 2023年3月20日)
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