地域で輝く民医連診療所 各地のとりくみを共有 第1回 診療所実践交流集会
2月23日、全日本民医連の診療所委員会が主催し、第1回診療所実践交流集会を開催しました。全日本民医連事務局と栃木・宇都宮協立診療所を主会場に、参加者はすべてWEBで313人が参加し、分科会は7テーマ29演題の発表で、全国の実践を交流しました。(稲原真一記者)
全日本民医連副会長で、診療所委員会委員長の大島民旗さんが開会あいさつ。集会テーマの「今こそ輝け! つながる・語る・出かける民医連診療所」を紹介し、「地協での交流などもあまりできていないが、オンラインなら気軽に実践や問題意識を共有できると企画した」と集会の趣旨を説明しました。また第45期総会運動方針に触れ、「いのちとケアが大切にされる社会に向けて、今日の学びを持ち帰り、各地での実践に生かしてほしい」と呼びかけました。
「地域の困った」を「どうにかできる」が目標
宇都宮協立診療所事務長の大野学さんが、診療所の概要や活動を紹介しました。栃木民医連は診療所のみの県連であり、同診療所は19床の入院機能がある有床診療所です。現在所長代行の武井大さん(医師)の赴任以降、研修などを通して、総合診療などに関心のある若手医師が多数合流。現在8人の常勤医師がいます(後期研修医含む)。栃木保健医療生協理事長の関口真紀さん(医師)の学習会をきっかけに、医師会でSDH(健康の社会的決定要因)にとりくむための「社会支援部」が立ち上がるなど、地域連携にも力を入れています。気になる患者カンファレンスや、無料低額診療事業(以下、無低診)、地域訪問の活動は、NHKが取材、報道したことも紹介しました。
育成分野では、東京・生協浮間診療所の実践を参考に、看護師のプライマリケア研修を開始。医師集団も協力し、「今年度は初めて新卒の奨学生を自県連で研修できた」と報告しました。2014年、医師後期研修の総合診療プログラムで連携施設として登録が始まり、初期研修でも地域医療研修を受け入れています。
また子どもの貧困にとりくむ「子どもみらい応援隊」や地域のボランティアネットワークとも協同して活動しています。「今後の目標は、地域で困っている人をどうにかできる診療所になること」と語りました。
その後は武井さんの案内で、オンライン診療所見学を行いました。画面越しに、医局、管理室、診察室などの診療所施設や、周辺地域の特徴について紹介しました。新型コロナ感染拡大時には、有症状外来で最大70人を対応した経験や、外来や診察室のつくりと職員の対応、クラウド型の電子カルテの紹介などもありました。参加者からは「雨の時の有症状外来の対応は?」などの質問もあり、それぞれの診療所との違いなど、興味深く見学しました。
ポジショニングと医師養成を重視
続けて武井さんの「民医連診療所が輝くために」と題したミニ講演。同診療所は地域のなかでのポジショニングを意識し、医師養成に力を入れていること、社会や制度からこぼれ落ちそうな地域の人や患者と、ささえ合って医療をしていることを紹介しました。在宅医療では未分化、複雑困難事例への対応、コロナ禍では受療難民を生まないことを意識していたといいます。そのためにも無低診は外せないと強調。他の医療機関との連携も、そうしたポジショニングを意識しています。
看取りは毎年増えていて、昨年度は180件近くあり、7割前後は在宅で看取っています。武井さんの在宅医療での合い言葉は「行けばわかるさ!」。大変な人ほど情報はなく、待っていては始まらないとの経験からの言葉です。その他にも「『通院困難』は立派なプロブレム」「『受療拒否』の要因に私たちの対応があることもある」「がんは急げ」「『高齢者の食欲不振』はノープランで返さない」など、日々意識していることを紹介しました。
コロナ対応では職員チームを守ること、変わり続ける状況に合わせて対応できるチームをつくることが重要だったといいます。中核となる保健所と病院をささえることも必要で、若年層でかかりつけのない人も含めて、受療難民対策が必要だったとふり返ります。
無低診はとりくみがひろがり、「WEB検索で『無料』『医療』と検索すればつながるようになった」といいます。同じく無低診を実施する、済生会宇都宮病院との連携もすすんでいます。
武井さんは診療所での医師養成は、医学生対策、地域医療研修、専門医プログラム、既卒医師対策のすべてが必須といいます。自分たちのポジショニングについて、熱意を持って伝え、トライアンドエラーを大切に、「風通しは良くしようとしなければ悪くなる」を合い言葉にしていると紹介しました。同診療所の研修は、家庭医療・総合診療という共通事項と、多様性のある専門性が強みだといいます。外来体制が複数あることで、急な医師の欠勤などにも対応が容易で、計画的な長期の休みやメンタルの不調などにも対応できています。4月からは地域志向ケ
アプロジェクトとして「U-CAT(Utsunomiya Community Assistance Team)」をつくり、「地域で困っている人がいればすぐに飛び出していけるようにしたい」と語ります。
実践や悩みを交流
武井さんの講演に参加者からは「有床診としての職員の役割分担は?」「研修医への対応で意識していること」「共同組織と研修医のかかわりは?」「診療や研修でのITの活用について」など、たくさんの質問が出ました。武井さんからは、「職員は入院と外来を分けずに対応していて、今後は在宅の調整機能を強化したい」「研修中の働きやすさややりがいを感じられるようにすること、後期研修後も残ってほしいと常に伝え続けている」「コロナ禍で組合員が遠慮してしまい、いっしょに活動できていないので、地域志向ケアプロジェクトを利用して、こちらから会いに行くようなことがしたい」「外部との連携は栃木県が運営する医療用SNSや、職員同士のコミュニケーションを円滑にするツールを使用。しかし、気をつけないと時間外の対応が増えてしまう」との回答がありました。
講演後は休憩を挟んで、7つのテーマで分科会が行いました(表)。演題は各地のフードバンク・パントリーのとりくみ、診療所での職員研修の経験、法人診療所委員会での事例検討会、コロナ禍で患者の受療権を守るとりくみ、調剤薬局の無低診助成など自治体との連携、その他、さまざまな実践が発表されました。その後は職種ごとに分かれての班別意見交流が行われ、参加者は各地の実践や悩みなどを交流しました。
診療所委員で全日本民医連理事の原田真吾さんが、閉会のあいさつ。「オンラインでの診療所見学には可能性を感じた。さまざまな地域で、条件に合わせた診療所づくりがされていることに感心している。分科会では実行委員の想定を超えるたくさんの演題発表があり、ざっくばらんな交流ができた」とまとめました。最後は「職場で今日得たものを共有し、今後の活動に生かしてほしい。そして春の統一地方選挙には地域のいのちの砦(とりで)として、民医連の要求をかかげて職員みんなでとりくんでもらいたい」と呼びかけ、集会をしめくくりました。
(民医連新聞 第1779号 2023年3月20日)