日本の進路めぐる正念場 9条と市民の力で平和を 一橋大学名誉教授 渡辺治さん
全日本民医連は2月4日、「大軍拡阻止、改憲許さない学習・活動交流総決起集会」を開催。一橋大学名誉教授の渡辺治さんが、「安保3文書は何を狙っているのか? ―大軍拡と改憲を許さない平和のたたかいの展望―」と題し、学習講演をしました。概要を紹介します。(丸山いぶき記者)
■なぜ安保3文書? ねらいは?
岸田政権は昨年末、安保3文書の改定で、「戦後の安全保障政策の大転換」を断行しました。安保3文書とは、外交、防衛、経済を含めた基本方針である「国家安全保障戦略」と、そのうちの軍事力強化の目標を示す「国家防衛戦略」、今後5年間にかかる経費総額、装備品の数量が書かれた「防衛力整備計画」のことです。
そもそも、戦争しない、戦力をもたない、と定めた憲法9条のもとでは、こんな「戦略」文書は持てないとされてきました。その状況を大きく変えたのは、第2次安倍政権です。岸田政権は、その未完の野望を受け継いで、実現しようというのです。
安倍政権は2013年にアメリカをまねて国家安全保障局を創設し、「国家安全保障戦略」を策定。また、9条の縛りを打破し、集団的自衛権行使容認へと政府解釈を変え、安保法制(戦争法)を成立させ、さらに明文改憲へと突きすすみました。
続く菅政権時には、アメリカが対テロ戦争から米中軍事対決路線へと世界戦略を転換。対中軍事包囲網の要となった日本に対し、台湾有事で米軍が介入した際、日本が攻撃されていなくても、集団的自衛権を行使して参戦することを求めたのです。21年4月の日米共同声明で日本は、(1)台湾有事の際の日本の参戦、(2)中国を攻撃する攻撃的兵器―「敵基地攻撃能力」保有、(3)対中戦争の最前線基地となる辺野古、馬毛島基地建設の3つの約束をさせられました。
岸田政権は、明文改憲と対米約束を果たすことを求められるなか誕生。この難題に対し、絶好の追い風となったのがウクライナ危機でした。岸田政権は、ウクライナは他人ごとではないという口実で、安保3文書改定、敵基地攻撃能力保有、防衛費2倍増の大軍拡に乗り出したのです。
安保3文書には3つのねらい、危険性があります。(1)敵基地攻撃能力という違憲の攻撃力保有、(2)それを含む5年で43兆円という大軍拡、(3)それを賄う社会保障費削減、国民負担増と大増税です。これを実現すれば、日米同盟は文字通り軍事同盟化し、極めて危険な道を歩み出すことになります。
■私たちはどうたたかうか
国民は、こんな軍拡にかならずしも同意を与えていません。ウクライナや中国、北朝鮮問題で改憲賛成は増えたものの、9条改憲は反対が多数。防衛費著増を賄う増税、社会保障費削減、負担増には、怒りの声があがっています。
ウクライナ侵攻の教訓は、軍事力強化と軍事同盟では平和は実現できない、ということ。すべての戦争は軍事同盟の強化競争から起こっています。日本が78年平和でいられたのは、日米同盟のおかげでも、自衛隊のおかげでもありません。9条の縛りによって、ベトナム戦争をはじめとしたアメリカの戦争に、集団的自衛権で加担できなかったから。また、領土問題を抱えながらも9条の縛りで自衛隊を出せず、日中平和条約などの「武力によらない解決」を、何度も確認してきたからです。
とはいえ「万一、中国が攻めてきたら9条は役に立たないのでは?」との声も。しかし「万一」は防ぐことができます。9条はその「万一」をつくらないことを政府に義務づけていますが、安倍政権以来の軍拡、解釈改憲で「万一」の危険が高まっています。
これを止めるには政権交代、安保法制の廃止が必要ですが、そのためにもまず、以下の運動から始めましょう。(1)大軍拡、敵基地攻撃能力保有反対、軍拡による暮らしの破壊にNO! の声をあげること、(2)あらためて改憲発議阻止に焦点を合わせてたたかうこと、(3)統一地方選挙で憲法を生かす地方自治体を増やすことです。
日本の進路をめぐる正念場。78年改憲を阻み戦争しない国を維持してきた運動の力に確信を持ち、大軍拡と改憲で平和は実現できないことを正面から訴えましょう。
※講演動画は、全日本民医連ホームページ職員専用ページ→委員会→憲法改悪を許さない! 全日本民医連闘争本部にて限定公開中。
(民医連新聞 第1778号 2023年3月6日)