元の生活を返せ! 事故後わずか12年で原発回帰!?
東日本大震災・東京電力福島第一原発事故から12年。日本の原子力政策はいま、大きな岐路にあります。(丸山いぶき記者)
「ALPS処理水」海洋放出
漁連が断固反対示すなか
政府は今年1月13日、東京電力福島第一原発で発生する「ALPS処理水」(詳細後述)の海洋放出の時期について、「本年春から夏頃」と明言しました。全国漁業協同組合連合会(全漁連)は同日ただちに、「海洋放出に反対であることはいささかも変わるものではない」との会長談話を発表し、これまで一貫して主張してきた海洋放出「断固反対」の立場を、あらためて示しました。
福島県沖の海域は、黒潮と親潮が交差する全国有数の漁場です。漁獲量、魚種ともに豊富で、かつて東京築地では「常磐物(じょうばんもの)」と呼ばれ、新鮮さと味の良さから高く評価されてきました。福島県漁連は1月26日の県漁連組合長会議で、県内3漁協による沿岸漁業の昨年1年間の水揚げ数量が前年比で1割ほど、金額も4割ほど増えたと報告。それでも震災前と比べると、量で2割強、金額で4割弱の水準です(朝日新聞デジタル1月27日付)。
「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」としていた方針を覆し決定(21年4月13日)された海洋放出は、地元と国民の声を踏みにじる暴挙です。しかし、この間も海洋放出に向け着々と進行。昨年7月22日には、原子力規制委員会が東電の海洋放出関連設備の設置などの計画を認可し、東電は8月4日、沖合約1kmの放出地点へ続く海底トンネルの掘削を開始しました。
販路回復も事業者自ら
アオサ漁師は訴える
2月3日午前6時過ぎ、東の空が白み始めた福島県相馬市の漁港で、遠藤友幸さん(63)は、漁の準備を始めました。アオサ(ヒトエグサ)漁師歴40年。祖父の代から続く家業を、今は2年前に東京から帰ってきた息子とともに続けています。兼業米農家でもあり、米は原発事故後、飼料米として出荷しているといいます。
「(海洋放出に)反対は反対。でも、前へすすみたい。そのために他に方法がないと言うのなら、受け入れるしかないのか、とも思う」と、葛藤する胸の内をのぞかせます。
この日の収穫量はおよそ80kg。現在は収穫日が月・水・金曜日に限られており、最盛期の10分の1程度にとどまるといいます。いまも福島県産品の輸入規制を続ける国がある一方、受け入れ国も増えています。「国には海洋放出の前にやるべきことがある。若い世代に受け継いでいける普通の事業環境を取り戻す努力だ。自分たちがこんなに努力しているんだから」。遠藤さんら相馬の海産物事業者有志は、海外への販路開拓に動き出しています。
「俺らの願いはひとつ、元の生活を返してくれ!」
地下水抜本対策、地上保管を
対案学び、反対の声をあげよう
東電は、「ALPS処理水」について「トリチウム以外の放射性物質が、安全に関する規制基準値を確実に下回るまで、多核種除去設備等で浄化処理した水(トリチウムを除く告示濃度比総和1未満)」と説明。「トリチウムの規制基準を十分に満たすよう海水で希釈」して海洋放出するため、「安全だ」と主張します。
しかし、原発事故で溶け落ちた燃料デブリに触れた汚染水に含まれる多種多様の放射性物質のうち、多核種除去設備で効果が期待できる62核種だけを除去対象として選定しています。また、どんなに薄めても総量は変わらず、海洋放出に総量規制の観点はなく、放出はいつ終わるかわかりません。
地質・地下水の専門家でつくる研究グループは、広域遮水壁など抜本的地下水対策で、汚染水を削減できると提案(右冊子)。市民団体「原発市民委員会」は、大型タンクで長期地上保管し、放射線量の減衰を待つべき、敷地もまだあると指摘しています。専門家が示す「対案」をあらためて学び、取り返しのつかない海洋放出に反対の声をあげましょう。
原発推進GX
利権がいのち、暮らし
踏みにじる
岸田内閣は2月10日、昨年末に発表した「GX(グリーントランスフォーメーション)実現へ向けた基本方針」を閣議決定しました。福島原発事故後、「原発依存度は可能な限り低減」、原発の新増設は「想定していない」とくり返してきた方針を180度転換し、原発の60年超の運転容認や新増設などを盛り込んだ内容です。
年末年始を挟む1カ月間のパブリックコメント(意見公募手続き)の締め切り後、わずか2週間余りでの閣議決定。岸田首相が昨年8月に検討を指示してから半年足らずの異例の進行は、ウクライナ侵攻によるエネルギー危機、電気料金値上げへの国民の不安を利用したとの批判を免れません。
福島・生業(なりわい)訴訟原告団長の中島孝さんは、「原発政策では利権のために人びとのいのち、暮らしを平気で踏みにじる。憲法の視点で止めなければ」と訴えます。
緊急抗議行動
原発回帰のGX実行会議方針閣議決定許さない!
2月10日、首相官邸前で「原発回帰のGX実行会議方針の閣議決定を許さない! 緊急抗議行動」が行われました(主催‥さようなら原発1000万人アクション実行委員会、原発をなくす全国連絡会など6団体)。
経済産業省の原子力小委員会委員をつとめる、原子力資料情報室の松久保肇さんは、(1)運転期間延長は大前提の安全性をゆるがし、新増設は脱炭素にも資さない、(2)原子力利用と規制を分離するためにつくられたはずの原子力規制委員会が、経産省と事前すり合わせをしていた、(3)ほとんど国民の声を聞いていない、と政府の基本方針の問題点を指摘しました。
各団体の発言では、2月8日の原子力規制委員会で委員の1人が反対し、政府方針に対応する安全規制概要(案)の決定が先送りされたことも話題に。「私たちの声は、届くところにはちゃんと届いていた」「国会審議に注目し、議員への働きかけ強めよう」と呼びかけました。
「原発ゼロWEEK」にとりくもう
民医連も参加する原発をなくす全国連絡会は、今年の「3・11」前後を「岸田政権の原発推進政策反対! 原発事故処理水の海洋放出を許すな! 原発ゼロ集中WEEK」と位置づけています。
「岸田政権の新・原発推進政策の撤回を求める全国署名」をひろげ、統一地方選挙の争点に押し上げていきましょう(通達全民医発(45)第ア―363号を参照)。
『福島第一原発の汚染水はなぜ増え続けるのか―地質・地下水からみた汚染水の発生と削減対策―』
福島第一原発地質・地下水問題団体研究グループ 著
頒価100円
(民医連新聞 第1777号 2023年2月20日)
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