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民医連新聞

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相談室日誌 連載533 高齢者からみえる社会構造 生活保護利用につなげた事例(東京)

 地域の開業医から連絡があったのは、昨年の年明けでした。「前立腺がんの疑いが濃厚で、精密検査のために病院へ行ってほしいのだけども一向に行かない。フォローしてほしい」というものでした。
 85歳のAさんは妻と二人暮らし。公的な年金収入はなく、私的年金と週7日2カ所の運送の仕事をして生計をたてています。仕事が終わって帰宅すると、17時以降の夜間診療をしているところでないと通えません。休みをとるためには、代わりの人を自分で探し、その人に1万3000円の日当を支払わなければいけないといいます。「入院になどなったらとんでもない」とAさん。尿閉のため、自己導尿が必要ですが、医師の指示通りの回数もできません。
 仕事をやめれば、高齢者のため無理に就労指導は入らず、生活保護の対象になるのは目に見えている状況ですが、車のローンやほかの支払いもきちんと払わなくちゃ、という真面目な性格や、毎日の労働で相談時間が取れず、時間が取れたとしても疲労による余裕のなさで難しい話には耳を傾けられない姿勢が続きました。「仕事をしていない自分の姿がイメージできない」という言葉を聞き取ることができましたが、「もう十分働いてきたのだからいいじゃないか」という言葉は通用しませんでした。
 開業医の心配もあり、毎月の診察に同行しつつ、粘り強く生活保護利用の提案も続けるなど転機を待った約1年後、病状的に専門治療が必要となり、無料低額診療事業を行っている民医連の病院に相談し、抗がん剤の治療開始となりました。仕事を打ち切られてしまったことをきっかけに、すぐに生活保護申請に同意しました。今では生活保護利用も始まり、安心して生活しています。生活保護は権利であること、車を所持していても申請はできるので、まずは生活保護を利用して生活を立て直すことをくり返し話していたことから、本人の受け入れもしやすかったと考えられます。
 高齢者が健康を害しても、なお労働を要し、かつ労働搾取にさらされていることへの怒りを感じるとともに、そのなかで生活している自分たちへの葛藤も生じました。地域包括支援センターからみえる高齢者の姿に、社会構造の矛盾がみえます。

(民医連新聞 第1776号 2023年2月6日)