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民医連新聞

民医連新聞

元気で働き続けられる職場をみんなでつくろう ヘルスケアチーム 実践交流セミナー

 昨年11月26日、全日本民医連職員健康管理委員会は、「ヘルスケアチーム実践交流セミナー ~職員のメンタルヘルスをテーマに~」をWEBで開催し、42県連から300人が参加しました。

第Ⅰ部
対話と相互尊重が重要
職場づくりを学ぶ

 第I部では、北海道・勤医協中央病院の田村修さん(精神科・リエゾン科、医師)が、「コロナ禍での職員のメンタルヘルスを考える~ラインケアは難しくない!」と題して、学習講演をしました。概要を紹介します。

コロナ禍で何が起きたか

 コロナ禍のもとで、世代を越えて共通しているのは、「不安」「孤立感」「無価値感」です。とりわけ若い世代では、「望まない孤独」を強く感じる人が増えています。女性や非正規労働者などの相対的に弱い立場の人では、景気の落ち込みで大きな負担が生じました。医療や介護、地域の活動が制限され、認知症が悪化し、2020年には11年ぶりに自殺者が増加して高止まりが続いています。
 産業分野では、コロナ禍で業界ごとに業績が二極化し、社会全体の連帯感が弱まりました。そうした状況でのウクライナ危機は、さらに先行きの見えない不透明感を増大させています。
 医療や福祉の業界でも、コロナ対応の有無などで、職場内の分断や温度差が生まれています。歓送迎会やちょっとした飲み会など、公式・非公式の「対面コミュニケーション」は激減し、その重要性を実感した人も多いでしょう。特にコロナ禍以降の新入職員は、学外実習も不十分なまま現場に出ることで、大きな不安を抱えています。コミュニケーションの制限は、指導やコーチング、職員間のケアも困難にしています。
 いまこそ、職場でのコミュニケーションのありようが問われています。

職場づくりのヒント

 ラインケアとは、管理職が一般職員に対して行うメンタルヘルスケアですが、そのためには、まずはセルフケアを通じて自分が元気になることが大切です。その余裕を持つことが、ラインケアや当事者同士のピアサポートにつながります。これが職場のメンタルヘルスケアの基本です。
 自分の1日の平均的な過ごし方を書き出してみましょう。意外に短い睡眠時間や、不規則な食事時間に気づきませんか。基本的なことですが、「快食・快眠・快便」「適度な運動」が大切で、これ抜きに健康は考えられません。
 セルフケアは自分をよく知り、よく褒めることが大切です。自分を褒められない人は、他人のことも褒められません。自分のパターンを学ぶことで、ストレスに対処ができます。「3つのR(Rest,Relax,Recreaition)」を意識して、健康的な生活習慣をめざしましょう。
 またストレスには逃げても良いストレスがあります。自分だけでどうにもならないことと、そうでないことを見極め、適切に相談やSOSを出せることが、その人の成長にもつながります。
 良質な睡眠は心身の健康状態を高め、仕事の効率やQOLを向上させ、疾患の予防にもなります。睡眠の2~3時間前に入浴して深部体温を下げることや、寝る前に刺激物を摂らないことなど、できることから実践しましょう。
 運動習慣としては、ウオーキング程度であれば週150分、筋トレであれば週75分が目安です。適度な運動は免疫力を上げ、薬物治療と同じくらい効果があるメンタルヘルスケアにもなります。
 つまり、みなさんが健康でいるために、睡眠や運動を犠牲にしてはいけないことを、強調しておきたいと思います。

ラインケアは対話

 研究では、自分の気持ちを言葉にするだけでも、ストレス低減効果があることがわかっています。話を聞く側は、聞くことに徹する傾聴の姿勢が重要です。問題が解決せずとも、「話をする・話を聞いてもらう」だけで十分意味があるのです。ただし、話すのが苦手な人が無理をしたり、苦手な人と上手に話そうとする必要はありません。
 ラインケアと聞いて難しく考えず、職場内の「対話」を工夫するだけで、それ自体がケアになります。相手を尊重しつつ、自分の意見を正しく伝えるアサーションという対話の方法があります。こうした手法も意識した、相互尊重コミュニケーションが重要です。
 指摘や指導をする際のコツは、(1)自分の気持ちを落ち着ける、(2)褒める内容は具体的にする、(3)問題や課題は行動や態度を具体的に示す、です。逆に相手の生まれ、人格、信条、感情などは間違っても批判すべきではありません。これらは本人にコントロールできない問題だからです。逆に行動、言い方、考え方は、伝えることで改善することが望めます。
 「話はよく聞き、その上で何ができるかをいっしょに考える。できることしかしてあげられない」これが大人のルールです。職員の目線では、この「聞いてもらえた、受け止めてもらえた」という体験と、落とし所を探るプロセスにいっしょにかかわる体験が、職場での心理的安全性や首尾一貫感覚を高めることにつながります。
 今後求められるリーダーは、失敗や弱みを見せられ、他者の強みや貢献を認める。そして周囲から積極的に学ぼうという姿勢を持った人だと考えられています。職員からの意見や要望に、反論や対立をするのではなく、組織の課題や現状を率直に説明し、いっしょに考えてほしいと伝えられるとよいのではないでしょうか。
 そうは言っても、トップダウンですすめなくてはいけない時もあるでしょう。その時には管理部が希望を語りながら伝えましょう。同じ内容でも、伝え方ひとつで受け取り方も変わってきます。

* * *

 メンタルヘルス対策は、みんなのためにすることです。ラインケアは対話であり、職場内のコミュニケーションそのもの。これは良いと思ったところをひとつでもいいので持ち帰り、みなさんが職場を変えていってください。(稲原真一記者)

第Ⅱ部
同じ悩みを共有できる
全国の仲間と交流

職場に分かれ

 続いて参加者は、医師、保健師、心理職、衛生管理者、その他の職種ごとに、全38班に分かれて分散会を行いました。テーマは「職員のメンタルヘルスについて」。学習講演の受け止めや各自の問題意識、実践、課題、悩みなどを交流しました。
 ある医師グループでは、ストレスチェック後の対応や、新型コロナウイルス感染症のクラスターが発生した事業所、職場での全職員面談などが話題に。産業医だけで対応が難しければ、積極的にカウンセラーや外部EAP(従業員支援プログラム)を頼り、「機を逃さず対応したいもの」と語り合い、事業所規模の違いを越えて経験を共有しました。
 また、ある保健師グループでは、「高ストレス者を面談につなぐために、窓口となる労働安全衛生委員を写真つきのお手紙で周知している」などの工夫も紹介。異動や人事交流が難しい小規模職場で、人間関係に起因するメンタル不調が発生した場合の対応、コロナ禍で入職した職員への、よりていねいなフォローアップの仕組みづくりなど、具体的実践に則した多岐にわたる問題意識を共有し、解決の糸口を探る場にもなりました。

全国でつながる意義

 再度の全体会で、分散会の内容を報告しました。医師グループからは、自身の感情的な態度への反省も語られました。心理職グループは、看護職員「以外」の職種にも、メンタル不調へのフォロー体制構築が急がれることを指摘。法人の衛生管理者グループでは、コロナ禍で自死した職員がいたことや、クラスターが発生したことへの自責の念、管理部としての悩み、自身のセルフケアなどが話題になり、トップ管理者が普段、相談できる場が少ないことが浮き彫りになりました。
 保健師、心理職グループからは、職種での全国交流集会や、つながりづくりの機会を期待する声があがりました。
 最後に、職員健康管理委員会委員長の今村高暢さん(愛媛生協病院精神科、医師)が閉会あいさつ。学びを各職場の実践に生かすことを呼びかけました。(丸山いぶき記者)

(民医連新聞 第1776号 2023年2月6日)