相談室日誌 連載532 精一杯の意思表示 その支援にどうかかわるか(山梨)
「どうしたいかなんてわからないよ!」
退院後の生活について本人の意思を確認しようとたずねたSWに、Aさんは叫びました。Aさんは60代の男性。生活保護を利用して独居生活を送っていましたが、精神症状の悪化にともない生活が破たんし、大きな声を出し、自宅2階から家財道具を投げ落としていたところ、近隣住民が警察へ通報。保護時に身体のふらつきを認め、当院へ救急搬送となりました。医学的には、発達障害と軽度認知症、脱水と肝機能障害の診断でした。点滴加療で脱水などは程なく改善しましたが、課題は生活環境の整備でした。「どうしたらいいのかわからないよ」「俺、何でここにいるの?」と混乱が強いAさんが現状認識をつくり、意思決定を行うにはどのような支援が必要なのか。他職種スタッフと相談を重ね、多方面からアプローチを行いました。
大部屋での療養に混乱する姿を見た病棟看護師は、個室を確保し落ち着ける環境を保障してくれました。臨床心理士の評価を参考に、本人の特性に合った情報提示を行いました。また、物事を想像して判断することが難しいAさんが、先々のことを入院中に一気に決めなくても困らないよう、地域に継続支援を依頼しました。医師は退院をせかさず、チーム方針を見守ってくれました(このケースではとてもありがたかった)。結果、「知らない人と過ごすのは落ち着かない。自宅で暮らしたい」「独りでは心配。時々様子を見に来てくれる人がいるといい」という意思表示が得られました。経験していないことを想像して見立てを行うことが苦手なAさんにとって、精いっぱいの大切な意志表示でした。
「Nothing About us without us(私たち抜きに私たちのことを決めないで)」
2014年に日本も批准した国連「障害者権利条約」の合言葉です。2022年9月に、日本は国連の障害者権利委員会より90項目以上の是正勧告を受けました。そのなかには「支援を受けた意思決定制度」を発展させるよう求める内容も含み、意思決定支援のあり方が今問われています。
私たちのかかわりはどうだろうか。自問自答しながら今日もベッドサイドに向かいます。
(民医連新聞 第1775号 2023年1月23日)
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