診察室から あいさつと名刺の力
私が医師となって初めて就職した部署は、お世辞にも雰囲気が良いとは言えない職場でした。朝出勤しても、先輩医師たちは伏し目がちに、あいさつもなくすれ違うことが常でした。いつしか、私も含め、研修医たちがあいさつを交わすこともなくなっていました。就職して数カ月がたった頃、それを見かねた先輩医師の一人が、研修医たちにあいさつをするよう指導をしてくれました。そのとき私は、社会人になってこんなことで注意されたことを恥ずかしく思うとともに、「この職場であいさつしてもいいのだ」と安心したことを覚えています。その後、自分からあいさつをするようになり、先輩医師たちもあいさつを返してくれるようになりました。
それ以来、私はあいさつをすることを大切にしています。経験を重ねるにつれ、あいさつにもいろいろな形、意味があると感じるようになりました。最近、私が意識していることは名刺交換です。例えば、診察やカンファレンスでケアマネジャーと同席する際、ケアマネジャーから名刺を渡されることがあります。そのとき、一般的には自分の名刺を返すことが多いのですが、医師のなかでそれをしている人は少ないように思います。その背景には、自分たちの立場が上という医師の無意識の偏見があるのではないでしょうか。私はそうした場面で名刺を交換することが、患者にかかわる仲間として対等な関係をつくりたいというメッセージになると考え、意識的に名刺を渡しています。名刺を渡すとケアマネジャーからは驚かれることが多いです。なかには、「初めて名刺をいただきました」と感激されたこともありました。
仕事をする上で、対等な関係をつくることが大切であることは言うまでもありませんが、実際には医師とそれ以外の職種との間には、まだまだ壁があるのではないでしょうか。あいさつや名刺は、その壁を取り払うきっかけをつくってくれると思います。
新しい年も気持ちの良いあいさつで、雰囲気の良い職場がたくさん生まれますように。(和田陽介、兵庫・ろっぽう診療所)
(民医連新聞 第1774号 2023年1月2日)
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