フォーカス 私たちの実践 注意機能、遂行能力など総合評価 脳血管疾患の自動車運転支援 島根・松江生協病院
生活で移動手段として自家用車に頼らざるを得ないなか、脳血管疾患患者を対象とした自動車運転評価を島根・松江生協病院で行っています。とりくみについて、第15回学術・運動交流集会で持田優里奈さん(作業療法士)が報告しました。
当院は、病床数351床の総合病院です。2021年現在、島根県は、人口66万人に対し、65歳以上の人口は22万人で、高齢化率全国3位です。加えて、公共交通機関の未発達もあり、高齢者も移動手段として自家用車に頼らざるを得ない状況があります。
■カンファレンスで判定
そこで当院では、2013年、脳血管疾患を対象とした自動車運転評価を行う自動車運転グループをつくりました。現在、作業療法士6人で活動し、評価マニュアル作成、症例検討、ドライビングシュミレーター(以下、DS)導入などを実施してきました。
自動車運転評価の流れについて、まず運転評価の処方があった場合、担当の作業療法士が身体機能・高次脳機能がそれぞれ自動車運転で可能なレベルか、という評価を実施します(図)。
高次脳機能評価では、自動車運転能力と関連があると言われている机上評価を実施し、注意機能、遂行能力、視空間認知能力などを総合し評価しています。高次脳機能評価が終了後、次はDSでの評価を実施していきます。
18年に各課題の所要時間や特徴をまとめたマニュアルづくりを開始し、現在はマニュアルをもとに運用しています。
自動車運転評価では、まずは路上走行モードの総合学習体験コースを使用し、総合的な運転技能や反応を評価します。その他のモードについては、日常的な訓練として必要に応じて作業療法士が選択し実施しています。
身体・高次脳機能、DS評価の終了後、主治医・担当スタッフを交えたカンファレンスにて評価結果を報告し、実車評価への移行が可能か、という判定を行います。この段階で運転不可と判断された場合は、主治医によるインフォームドコンセントなどのタイミングで本人・家族へ評価結果をもとに説明を行います。実車可能と判断された場合は、自動車学校での実車評価に移ります。実車評価では、当院と連携のある自動車学校へ担当作業療法士が連絡し、事前に患者の身体・高次脳機能についての情報や実車中の評価ポイントを共有しておきます。
その後、担当作業療法士が同行し、ペーパードライバー教習を受講していきます。まずは教習所内コースを走行し、基本技能をチェック。教官から許可のあった場合は公道に出て運転技能をチェックします。教習中の様子は作業療法士が評価用紙を用いてチェックし、教習後はふり返りを実施します。実車評価終了後は、結果をもとに再度カンファレンスにて話し合いを実施します。その後、評価結果をもとに主治医は診断書を作成し、運転免許センターで適性検査を受けて、最終的に公安委員会が運転可否の判定をします。
■脳神経内科以外から依頼増
グループとしてとりくみを行って良かった点、課題・展望についてです。
良かった点としては、評価マニュアルが作成されたことで、グループメンバー以外のスタッフも運転再開支援にとりくめるようになり、また、担当スタッフが困る場合でも症例検討として相談できる場が増えました。さらに、運転評価のとりくみが院内で周知され始め、脳神経内科以外の医師からも評価依頼される機会が増えてきています。
■自動車学校と連携強化を
今後の課題と展望です。1つ目に、自動車学校や免許センターとの連携がまだ不確立であり、医療関係者の配属がないため、意見交換を行いにくい現状があります。評価の流れについて不明な点がある場合はその都度、自動車学校・免許センターへ連絡し情報共有することで、より連携がとりやすくなるよう努めていく必要があると感じています。
また、2つ目に制度改正に伴った外来での自動車運転評価のとりくみ方が確立できていません。経過が長く、リハビリの期限が切れて、医療保険制度から外れた患者の評価運営方法を、現在、他院からの情報も参考に検討しています。
(民医連新聞 第1773号 2022年12月5日・19日合併号)