第15回 看護介護活動研究交流集会 オンライン開催 記念講演 私が原発を止めた理由 福井地裁元裁判長 樋口英明さん
2014年、関西電力大飯原発(福井)3・4号機の運転差止判決を出した、福井地裁の元裁判長・樋口英明さんが、看護介護活動研究交流集会で「私が原発を止めた理由―本当は誰にでも分かる原発差止裁判―」と題して講演しました。概要を紹介します。
ロシアのウクライナ侵攻で、日本でも核共有や敵基地攻撃能力の議論が起きています。ロシアはウクライナのザポリージャ原発を簡単に占拠しました。原子炉が管理できなくなると、暴走して大事故になるので従業員は逃げだすことができませんでした。原発は自国に向けられた核兵器です。原発を廃炉にすることが防衛の第一歩です。原発を維持したままの防衛論議は空理空論です。
また、天然ガスの値上げを理由に原発再稼働の声が高まっています。ザポリージャ原発が大事故を起こせばヨーロッパ壊滅と言われています。ヨーロッパ壊滅や日本壊滅の話と天然ガスの値上げとは次元を異にする話です。
■重なったフクシマの奇跡
東京電力福島第一原発事故では信じられないくらい数々の奇跡がありました。2号機では格納容器内に水素と水蒸気が充満し、吉田昌郎所長は格納容器の大爆発による「東日本壊滅」を覚悟しました。しかし、頑丈で密閉されているはずの格納容器に弱い部分があり、圧力が漏れて爆発に至りませんでした。2号機が言わば欠陥機だったために東日本壊滅を免れました。
4号機は運転停止中で、使用済み核燃料は貯蔵プールに保管されていました。貯蔵プールも冷却できなくなり、水が干上がっているのではないかと心配されました。そうなると使用済み核燃料が溶け落ちてきて、東日本壊滅となるのです。貯蔵プールの横の原子炉ウェル(原子炉上部の空間)に工事のために水が張ってあったのですが、原子炉ウェルと貯蔵プール間の仕切りがずれるという、絶対にあってはならないことが起きて、原子炉ウェルから貯蔵プールに水が流れ込んだために助かりました。しかも、工事は、本来ならば3月7日に終了していて、水は抜かれていたはずだったのです。
■原発はパーフェクトの危険
一般に被害の大きさと事故発生確率は反比例します。しかし原発は、被害の大きさも事故発生確率も高い、パーフェクトの危険です。
表1は2000年以後の主な地震の揺れの加速度(ガル)と原発とハウスメーカーの耐震性を示したものです。5115ガルは三井ホーム。大飯原発はわずか405ガル(判決時700ガル)です。目安としては震度6強は830~1500ガル、震度7は1500ガル以上です。
表2は原発の基準地震動です。表から言えることは、原発は震度6強に襲われると危うくなり、震度7に襲われると絶望的になるということです。
■すべての差止裁判で勝利を
世界の地震の10分の1が日本で起きています。地震はプレートの境目に集中して起きますが、日本は4つのプレート上にあり、地震の空白地帯はありません。
従来の裁判は住民側と電力会社との間で専門技術論争をしていました。これからは誰でも理解できる、よって誰でも議論に参加でき、それ故に誰でも確信が持てる裁判に転換しなければなりません。すべての原発差止裁判で地裁、高裁で勝利し、誰もが納得できる理論を社会に浸透させ、最高裁も納得させることが重要です。3・11を経験し、事実を知った私たちの責任は極めて重いのです。
最後にキング牧師の言葉を紹介します。「究極の悲劇は悪人の圧政や残酷さではなく、それに対する善人の沈黙である。結局、我々は敵の言葉ではなく、友人の沈黙を覚えているのだ。問題に対して沈黙を決め込むようになったとき、我々の命は終わりに向かい始める」
(民医連新聞 第1772号 2022年11月21日)
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