診察室から じっくり築く関係性を諦めない
みなさん、こんばんは。金木犀(きんもくせい)の香りが街に漂うなかで、原稿を書いています。田舎の病院の当院でも、コロナ診療やワクチン対応などで多忙ではありますが、新しい出会いも経験しています。
多忙な「花形」の後ろには、やや静かな外科外来があります。その分と言ってはなんですが、かかりつけの患者とゆっくり話をさせてもらっています。「毎週、孫がひ孫を連れてやってくるので大変!」と、うれしそうに話す胃がん術後のAさん、「今までは3世代いっしょに大きい車に乗って日本各地を訪れていたけど、今はねぇ~」と嘆く、足底のたこを削りに来るBさんなど。「しっかり食べて体力維持しないとね」「いつかのために足裏を整えておきましょう」なんて返しています。人とのかかわりが少なくなっているなかで、ちょっとでも心に残る話ができたらな、と思います。
在宅医療の場面では、施設に赴く我われに変わりがなくても、患者は、家族と会ったり外出したりという行動が制限されています。「寂しい、うちに帰りたい。でも自分ではごはんの準備もできない」。解決策はなかなか出せませんが、しばし足を止めじっくり耳を傾けるように心がけています。
スタッフともちょっと心が離れかけていたかもしれません。がん患者の死後カンファレンスでは、大勢の病棟スタッフ対主治医という構図で、あたかもつるし上げのよう。いやいや、これ自体が誤解だったのですが、要はもっと常日頃から話しておけば、さらに良いケアができたのでは? という結論になりました(と思います)。
ある企業は、離職者を減らすためにあえて職場内で仲良くなることを制限し、成功していると聞きました。ただ、やはり私たちは、相手の話を聞いて多様性を認めつつ、深いつながりを築き上げることを大切にしたい。ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)と健康の関連性も言われています。人と人が結びつくことで、健康も増進します。その結びつきをひろく、深く追求していきたいです。(小坂聡哉、三重・津生協病院)
(民医連新聞 第1771号 2022年11月7日)
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