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民医連新聞

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人権、倫理にどう向き合うか 旧優生保護法プロジェクト

 今年7月、全日本民医連は「旧優生保護法下における強制不妊手術問題に対する見解」(以下、見解)を発行しました。プロジェクト委員長を務めた全日本民医連副会長の山本一視さんに、「見解」に込めた思いと、学ぶ意義について聞きました。(稲原真一記者)

■はじまりは驚きと後悔

 旧優生保護法プロジェクト(以下、PJ)は、2018年に当事者が国賠訴訟を起こしたことがきっかけで始まりました。訴訟が話題になるまで、旧優生保護法(別項)の人権侵害を、全日本民医連は組織として認識しておらず、「無差別・平等を掲げる民医連が、なぜ気づけなかったのか」と、申し訳なさと同時に、驚きと後悔がありました。強制不妊手術には医療現場が深くかかわっており、民医連も当事者の立場で、この問題に正面からとりくみ、調査、謝罪、反省の必要があると議論になり、PJが始まりました。

■問題の本質と組織の未熟

 PJ会議は19年に7回、20年はコロナ禍で一時休止し、21年には9回開催という、長い時間をかけて議論しました。
 PJ会議のはじまりは、民医連が「優生思想」と向き合う期間でした。外部講師を招き、歴史や現在の知見を学び、民医連の直接の関与の調査を行いました。また争われている訴訟の中身や、どのように連帯していくのかなどの議論を重ねました。
 19年の時点で、一度「到達」という形で文章化を行いましたが、現場でいのちの倫理にいつも向き合っている専門領域の委員会から、「今の問題として、自分の問題として議論されていない。内容が不十分である」という趣旨の意見が寄せられ、44期のPJ継続を決めました。
 この2期にまたがるとりくみによって、1章で的確に経過が言語化され、2章でこの法律とそこで起きたことの本質を明確にすることができました。「見解」の2章に詳述した3つの罪((1)強制不妊手術によって一人の人間のいのちの継続性を絶ち、人生の可能性を奪った、(2)誤った障害(者)観をひろく社会に浸透させた、(3)他の障害にかかわる法律・制度に影響を与えた)から問題の本質を学び、障害者の存在自体を否定している旧優生保護法が、「公益」の名のもとで正当化され、維持されたことを認識しました。
 議論を重ねて見えてきたのが、3章の民医連の課題をどう考えるかです。
 過去を現在の倫理観で見つめてわかったのは、優生思想の影響下での私たちの障害者観における立ち遅れであり、障害者に対する医療従事者のパターナリズム(※)でした。そのことが当事者とのかかわりを妨げました。また問題に気づいていた個々の職員の問題意識を、運動方針にできなかった組織としての未熟さもありました。そしてこれは、当事者とともに歩む、「共同のいとなみ」の重要性の再発見にもなりました。

■民医連のこれから

 この文書でどこまで踏み込むかは会議でも議論になりました。しかし、民医連が現在、そして今後も起こり得る人権侵害にどう向き合うのか書き切るまで、このPJは終われないとの結論になりました。それが4章です。
 4章では、人権や倫理は絶えず変化、進歩していることを認識し、学び続けること、現在の倫理の到達に、私たちの考えや社会のルールが追いついていないこともあると認識すること、そして「共同のいとなみで個人の尊厳を守ること」に最大の価値を置く必要があると確認しました。
 PJ会議での作業は、民医連のこれからに光を当て、未来に向かう道を示すものでした。「見解」を学習することは、旧優生保護法を通して「誰もが幸せになる権利があること」を学び、過去から現在、未来につながる民医連の「なんのために、誰のために」を考えることです。
 多くの場面でおかしいと思うこと、簡単に結論を出せないことがあります。それに向き合う力をつけることは、とても大切です。4章の内容は、これから民医連職員みんなで育てていくもので、具体化も今後の課題です。ぜひ、多くの人が「見解」を学び、実践に生かしてほしいと思います。今年の『民医連医療』10月号の特集も、合わせてお読みください。

※パターナリズム 強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益のためとして、本人の意志は問わずに介入・干渉・支援すること。


旧優生保護法

 1948年、「優生上の見地から不良な子孫の出生防止」「母性の生命健康の保護」を目的に、不妊手術や中絶を合法化する法律として制定。96年の改定まで、障害者や特定の疾患患者などを対象に“公益”を名目に2万4993件の強制不妊手術が行われた。
 2018年から被害者が全国で国賠訴訟を起こし、判決の出た6件のうち4件で違憲判決が出されている。

(民医連新聞 第1769号 2022年10月3日)