いのちを守る地域に根ざす 第15回共同組織活動交流集会指定報告から
全体会で行われた指定報告の概要を紹介します。
憲法9条の魅力や大切さを発信
ふくおか健康友の会中央支部「9条を守る班」
福岡・ふくおか健康友の会中央支部の事務局長・田口智彦さんは、「9条を守る班」の活動を報告しました。
同班は、安保法制(2015年成立)や共謀罪法(2017年成立)など、「戦争する国づくり」に向けた憲法違反の法律の強行採決・成立をきっかけとして、2017年11月に発足。宣伝署名行動などを通じて、通学中の小学生から、戦争を体験した高齢者まで、幅広い世代に憲法9条の持つ魅力や大切さを訴えてきました。
田口さんは、今年4月に友の会が福岡医療団、福岡保健企画とともに3年ぶりに開催した第14回「すこやか春の文化祭」で、同班が出展した動画も上映。そのなかで「今年で95歳になる」という同支部の石村善治さんは「終戦の時を昨日のことのように覚えている」と述懐。天皇が国民に終戦を伝えた1945年8月15日の夜、前日までの灯火管制(夜でも灯りをつけないように国に命令されていた)とは打って変わって、「国民が明々と電気をつけ始めた。それだけ、戦争が嫌だと思いながら声に出せなかった」と語り、「戦争は絶対やってはいけない」と強調しました。
同じく友の会員の井下顕さんも弁護士の立場から「戦争は政府の行為によって起こります。国民が戦争を起こすことはありません。ここが大事」と指摘。「日本国憲法9条を持つ国に生きる国民として、国際社会に対し“ロシアの侵略戦争反対!”“決して戦争はいけない!”このことを強くみなさんとごいっしょに訴えていきたい」と力を込めました。
「合い乗りタクシー」実現
しが健康医療生協 湖南・甲賀支部
滋賀・しが健康医療生協の湖南・甲賀支部長の立入善治さんは、行政とも相談しながら実現した「小型乗合自動車公共交通事業」について報告しました。
同支部が活動する地域は、40年ほど前、中山間地に住宅を建て移り住んだ人びとの高齢化がすすみ、交通手段が問題に。市のコミュニティーバスは本数が少なく、さらにバス停から駅に向かうルートが基本のため、買い物など希望する目的地に行くには不便で「利用しにくい」との声があがっていました。
これらの声を受けて同支部は、地元の三雲まちづくり協議会や民生委員などに相談を持ちかけ、会議を重ねて、三雲学区の全住民にアンケートを実施。さらに湖南市とも相談を重ねた結果、市は三雲学区の路線バスを廃止し、かわりにバス停間を走行する予約制の「合い乗りタクシー」を始めました(今年4月)。停留所も増え、市民に喜ばれています。
立入さんは、地域住民の信頼を得て、行政とも協力しながら、地域の健康づくり、まちづくりのためにがんばっていく決意をのべました。
空き家を改修して活動の拠点に
岡山ひだまりの里病院
岡山ひだまりの里病院の黒瀬健弘さんは、岡山市南区阿津の「コミュニティスペース阿津ひだまりの里」について報告。
岡山市は、人口70万人の大都市ですが、阿津地区は人口減少がすすみ、住民400人のうち80歳以上が6割に達し、子ども会や老人会などもなくなり、「限界集落と言っても過言ではない」と黒瀬さん。その阿津に住んでいた連合町内会長のAさんから、同院に生前贈与されたのが、のちに「阿津ひだまりの里」となった邸宅です。Aさんの死後、同院は町内会に寄贈を申し入れましたが、断られていました。
しかし2019年、黒瀬さんが高校の同窓会に出席した際に知り合ったBさんが阿津の住民。Bさんが翌年、町内会の役員に就任したことが契機となり、同院が改修し、町内会に無償貸与する形で、コミュニティースペースがオープンしました(2020年12月)。
開所式では、林友の会主催で、講演会を開催。さらに整骨院を週3日誘致、パンの委託販売なども始めました。近隣の空き家を壊して広場も整備。さらに町内会は、朝市や、登山道を視察してトイレの設置を市に要望するなど、多彩な活動を展開しています。同院の医師が講師となった認知症に関する講演会も行い、町内会の役員から「この町では、認知症という言葉がタブーではなくなってきた」と話すなど、変化が生まれています。
黒瀬さんは「今後も地域の活動に参加しながら、ともにまちづくりをすすめたい」と語りました。
強化月間で対話活動ひろげる
宮城 大崎健康福祉友の会
宮城・大崎健康福祉友の会事務局長の只埜斉さんは、2021年共同組織活動強化月間で「3000人対話寄りそい行動」として行った、暮らしのアンケート活動を報告しました。アンケートは、大崎健康福祉友の会が地域で果たしている役割や求められていることをつかむ目的で実施。(1)職員が電話で、アンケートの内容を対話する、(2)役員、班長に友の会だより配布時にアンケートを依頼し、会員より聞き取る、(3)個人会員に返信用封筒でアンケートを送ってもらう、方法で行いました。
質問項目は、奈良・平和会が実施したアンケートをもとに作成しました。
新型コロナウイルス感染拡大による暮らしへの影響、心と体の健康、生活不安などを聞き取る内容で、管理部を先頭に行った職員の電話かけでは「たくさん話してくれた」「突然の電話に驚いたと言いつつ、快く話してくれた」などの感想がありました。
アンケートは242通の回答があり、「人と話したり連絡する機会に変化があった」「ストレスを感じたり不安に思うことが増えた」「運動する機会や運動量が減った」が約半数。自由記載欄に207人が回答し、「年金が少なく、物価が高く、生活がたいへん」「お茶飲みできないのが寂しい」「県内にいる娘、孫に会えないことがつらく、さみしい」などの声が寄せられました。
また「身近に相談できる相手がいない」「相談窓口やカウンセリングなどの支援が必要と感じる」の両方に回答した4人に個別に連絡をとり、対応したことを報告しました。
記念講演 共同組織はまちと社会の「資本」
京都大学大学院教授 近藤尚己さん
1日目の全体会では、京都大学大学院教授の近藤尚己さん(社会疫学)が、「貧困・格差による健康問題と共同組織の役割」と題した記念講演を行いました。
近藤さんが専門とする社会疫学は、健康に影響する社会的要因(SDH)の統計を取って政策などに生かす学問。健康に影響があるのは、個人を取り巻く社会状況、コロナ禍、経済活動、所得格差、さまざまあります。しかし、困りごとを聞いても医療従事者だけで対応することは難しく、地域をより住みやすくすることが必要だと指摘。今回のテーマでもある、貧困と格差に対するキーワードは「つながり」だと言います。
世の中には、さまざまな資本がありますが、近藤さんは「もっとも根源的な資本はつながり資本」と強調します。つながりがなければ社会は成り立たず、多くのことの土台にあるのがつながりです。
2002年、山梨は健康寿命が日本1位だったことから、近藤さんの所属していた大学が、理由を研究しました。8年間の追跡調査の結果、山梨では人間関係が濃密であり、一人ひとりが社会とかかわりを持っていることが、健康に影響しているとわかりました。
現在は全国で66の自治体とも協力し、26万5000人の追跡調査も行っています。その結果、共同組織などの地域活動に参加している人は、健康寿命が18%、長生きの可能性が22%も上がることがわかりました。もっとも効果が高いのは「就労」ですが、近藤さんは「働かなくてはダメ、なのではなく、どんな人でも働ける地域づくりが大切」と言います。
「つながりには禁煙に匹敵する健康効果がある」とも指摘します。その理由として、孤独は1日たばこ15本に匹敵する健康への悪影響があると解説。さらに貧困層ほど孤独になる可能性は高く、リーマンショックや東日本大震災、コロナ禍などで出ている、格差や孤独による被害は、それを生み出した社会による人災でもあると言います。そして「さまざまな人びとや組織と手を携え、健康格差を生み出している社会の矛盾に対しても、現場から声を上げていくことも大切」と話しました。
どんな社会なら健康で暮らし続けられるのか。「共同組織など、市民のみなさんの活動が大切」と近藤さん。個人の責任ではなく、職場、学校、地域などの環境を良くすることが必要だと強調します。成功例として、地域の通いの場「コミュニティ・サロン」や、「地域診断書」を利用したニーズに合わせた自治体の食事会の開催などで、つながりから健康づくりがすすんだことを紹介。まさに共同組織の活動であることを語りました。
近藤さんは「共同組織は、まちと社会の『資本』」と言います。共同組織が元気になれば、医療機関も、まちも元気になると強調し、「病院と地域をつなげてください。孤立・孤独を抱える人にできることを持ち寄り、みんなで楽しく汗をかきましょう。人のためにがんばることが、長生きの秘訣です」と締めくくりました。
(民医連新聞 第1769号 2022年10月3日)