気候危機のリアル ~迫り来るいのち、人権の危機~ ④原発・火力をささえる容量市場 文:気候ネットワーク
2020年、新たな電力市場「容量市場」がスタートしました。1兆円規模の巨大市場で、甚大な消費者負担が伴う可能性が高いにもかかわらず、国会での審議なく導入されました。
容量市場は、将来的に電力が不足するという仮定のもと、「安定的に発電する能力(供給力)の確保」を名目として創設され、運営は電力広域的運営推進機関(OCCTO)が行います。4年後の供給力を確保するため、オークションで落札された発電設備を対象にOCCTOから一律で約定価格が支払われ、その費用は小売電気事業者から徴収したり、託送料に加算されます(図)。つまり、価格転嫁などで、最終的には電力を使用する消費者の負担になります。オークションに参加できるのは、FIT(固定価格買取)対象以外の電源ですが、自然に左右される変動電源の太陽光や風力は入札条件が厳しく、水力・火力・原子力が事実上の対象電源です。また発電と小売りを一体に行う大手電力は負担が増えず、価格転嫁も容易ですが、新興電力や再エネ電力には負担の大きい不利な制度です。
2020年の第1回オークションの結果、約定総容量は日本中の電源を合わせたような規模の1億6769万kW、約定価格は全エリア一律の1万4137円/kWとなり、約定総額は1兆5987億円となりました。2010年度末以前に建設された電源は、経過措置として支払額を減額します。仮に2010年以前に建設された100万kWの発電設備(原発1基分相当)であれば、通常の電力料金とは別に約82億円が、2011年以降に建設された同規模の発電設備には約141億円が、何もしなくても支払われる計算になります。
最大の問題は、化石燃料から再生可能エネルギーへと大胆なシフトが求められているなかで、効率の悪い老朽火力を含む石炭火力発電所や原子力発電所が、この制度で延命されることです。その費用は2024年から、再エネ電力を購入している消費者を含む、全消費者が支払わなければなりません。そもそもの目的だった新規電源開発もすすまず、再エネ普及にもブレーキがかかっています。さらに今年は、水素・アンモニア混焼設備など老朽火力を改造することへの容量市場の追加制度まで検討されています。このような制度が次々と導入されれば、気候変動対策は確実に失敗するでしょう。いま一度、電力市場のあり方を見直し、真のエネルギーシフトに向かうべきです。(桃井貴子)
気候ネットワーク
1998年に設立された環境NGO・NPO。
ホームページ(https://www.kikonet.org)
(民医連新聞 第1769号 2022年10月3日)
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