フォーカス 私たちの実践 自家歯牙移植術における予後調査 岡山・倉敷医療生協 5年生存率は85%禁煙が有効
失った歯のかわりに智歯(親知らず)を移植する自家歯牙移植術について、水島歯科診療所の歯科医師、滝本博さんが予後を調査しました。全日本民医連第15回学術・運動交流集会(昨年10月)での報告です。
抜歯後の修復治療には、ブリッジ、部分義歯、インプラントなどがあります。しかしブリッジは隣の歯を削る、義歯は咬合(こうごう)力低下・違和感が発生、インプラントは保険外で高額などの欠点があります。
それに対して、自家歯牙移植術は、智歯が残っているなどの条件が合えば、保険内でできる最善の治療策となります。
また、移植術は、喫煙や歯周病など口腔(こうくう)内の諸条件に左右されると考えられ、その経過は注目されています。長期予後調査の結果を報告します。
【方法】2011年からの5年間に行った歯牙移植術について、診療記録をもとに生存率を算出。経過観察期間は1~9年5カ月(平均5年1カ月)
【対象】症例数26例(20代5、30代4、40代9、50代7、60代1。平均42歳。うち喫煙者7)
【移植部位】上顎7例、下顎19例
【移植した歯(ドナー歯)】上顎智歯11例、下顎智歯14例、埋伏犬歯1例
■長期生存例
長期生存例を紹介します。
《症例1》42歳男性。上顎の長期生存例。2011年8月に右上第2臼歯を、深いう蝕により抜歯。右上埋伏智歯を移植し固定。9年5カ月たった現在も動揺、歯周疾患の進行なく機能しています。
《症例2》36歳女性。下顎の長期生存例。左下第2大臼歯を抜歯後、左下智歯を移植。9年後の2020年現在、かみ合わせも良好です。
《症例3》41歳男性。同じく下顎。右下第2大臼歯抜歯後、智歯を移植し8年生存。正常に機能しています。
■抜歯に至った症例
次に、抜歯に至った症例です。
《症例4》44歳女性。歯周病で周囲骨が退縮した右下第1大臼歯部に智歯を移植。5年後、歯周ポケットが8ミリに達し、排膿。抜歯し、ブリッジになりました。
《症例5》27歳女性。左下第1大臼歯に支持骨の吸収(骨がやせる)があり、抜歯後、智歯を移植。しかし5年後、周囲の骨が喪失。ドナー歯の歯根も吸収され、抜歯。治癒後にインプラントを実施しました。
■喫煙者に喪失が顕著
全症例での生存解析では、5年(60カ月)生存率は85%です(グラフ1)。発表当時、10年(120カ月)に到達した症例はありませんでしたが、約75%生存する可能性があることがみてとれます。
喫煙者と非喫煙者との比較では、喫煙者に喪失が顕著です(グラフ2)。抜歯の原因が歯周病の症例群と、歯周病ではない症例群も比較しましたが、生存率に明確な差はありませんでした(グラフ3)。
また、高齢になるほど予後が悪いのではないかと考え、40歳以上と40歳未満を比べましたが、有意差はなく、移植部位(上顎か下顎か)、性差、ドナー歯による有意差も認められませんでした。
【考察】自家歯牙移植術の5年生存率は85%で、抜歯後の機能回復処置として長期に良好な経過を示す治療だと言えます。条件が合えば、侵襲的な治療を回避、先延ばしでき、健全な口腔を保全できます。また、喫煙が予後に影響するとのデータから、禁煙が有効です。
保険適用の治療として技術研さんにつとめ、長期予後調査を続けて、QI活動(医療の質改善活動)に生かしていきたいと思います。
(民医連新聞 第1768号 2022年9月19日)