見通せない廃炉と汚染水問題の最前線 東京電力福島第一原発視察ルポ
福島県民医連は7月23日、東京電力福島第一原発を視察し、宮城、茨城、北海道、東京からの職員を含め計17人が参加しました。
快晴の太平洋を背に、目の前に迫り来るほど巨大な、むき出しの鉄骨とガレキの山。1号機の原子炉建屋から約100メートルの位置にある高台に降り立つと、そこには、事故から11年がたったとは思えない、生々しい光景がひろがっていました。
視線を落とせば、津波の被害そのままに赤茶けた構造物の残骸と、複雑に敷設された配管。右手には、唯一水素爆発を免れ、元の外観を留めながらクレーンや足場に囲まれた2号機、ドーム屋根の3号機、カバーに覆われた4号機が並びたちます。
「1~3号機の原子炉格納容器の底に溶け落ちた燃料デブリの取り出しは、まず2号機で、ロボットアームで数グラムをつまみ上げるところから―」。案内役の東電社員の説明からは、燃料デブリはいまだ状況把握と取り出し工法の検討段階で、廃炉まで途方もない年月を要すことが明らかでした。
テロや戦争による危険を論じるまでもなく、自然の力を前に無力な人間が「核を制御できる」と考えること自体が傲慢なのでは―。11年前、巨大地震と最大15mの津波により、非常用電源を含む全電源を失い、炉心の冷却ができなくなって、次々に過酷事故を起こした現場は、何より雄弁にそのことを物語っていました。
物々しさに高まる緊張
敷地面積350万平方メートル、東京ドーム約75個分の広さの福島第一原発では、1日あたり約4000人が廃炉作業にあたっています。その多くは、「協力企業」と呼ばれる下請け、孫請け企業などに雇われた労働者です。「協力企業棟」のそばには、食堂やコンビニを備えた大型休憩所や医療施設も。ただ、いずれも「新しく、前はなかった」との説明もありました。
「入退域管理棟」では、空港の入国審査や保安検査より厳重なチェックを受けました。東電は、構内の約96%で一般作業服による作業が可能としています。視察者も長袖、長ズボンと指定された私服の上に、貸与されたベストと手袋だけの軽装。とはいえ、男性は左胸ポケット、女性は左下腹ポケットに、貸与された個人線量計を入れるように指示され、視察前後に物々しい検査ゲートをくぐります。約1時間の視察での被ばく線量は、合計0・02mSv(歯のレントゲン検査2回分)。終始緊張は拭えず、覚悟が必要でした。
「処理水」海洋放出の現場
大型バスで構内を巡回。燃料デブリに触れた汚染水を「処理」する多核種除去設備(ALPS)や、事故以来続く原子力緊急事態宣言下の対策本部がある免震重要棟などを、車窓から見学しました。降車したのは、前述の1~4号機建屋に臨む高台だけでした。
後半は5・6号機付近へ。6号機の非常用ディーゼル発電機は他と異なり、地上の別棟にあったために電源喪失を免れました。福島県民医連事務局長の渡辺喜弘さんは、「電源喪失の危険がわかっていたから、新しい6号機では別棟にしたんじゃないのか」と、思わず怒りの声を漏らしました。
5・6号機の海側では、政府が来春開始と決めた「ALPS処理水」の海洋放出へ向けて、着々と準備がすすんでいました。視察の最後は、実験を交えた「ALPS処理水」の安全性の説明でした。
不自然極まりない明と暗
視察を終え、「ALPS処理水は安全・安心だ! という東電の大キャンペーンだと感じた」と渡辺淑子(しゅくこ)さん(福島医療生協・看護師)。福島県民医連事務局次長の安齋修治さんは、「東電が安全性を示すためにALPS処理水で行うヒラメの養殖実験では、食物連鎖を無視して顆粒エサをやる。意味があるのか」と指摘します。
福島第一原発の敷地を出ると、参加者が持参した線量計の値が上昇。そこにはかつて、人びとの暮らしがありました。9月5日、双葉町役場は11年5カ月ぶりに、JR双葉駅近くの新庁舎で業務を開始しました。そこから東へ、イノベーション・コースト構想で整備された地区へ続く道沿いには、休止中の双葉厚生病院の痛々しい姿が。西へ向かえば、屋根が朽ち落ちた民家もありました。
漁業関係者をはじめ多くの県民は、「処理水」の海洋放出に反対し続けています。福島県民医連も一貫して反対し、抜本的な地下水対策と地上保管の継続を求めています。にもかかわらず東電は8月4日、沖合約1kmの放出地点へ続く海底トンネルの掘削を開始。許されない暴挙がいま、この瞬間も進行しています。(丸山いぶき)
『福島第一原発の汚染水はなぜ増え続けるのか
―地質・地下水からみた汚染水の発生と削減対策―』
福島第一原発地質・地下水
問題団体研究グループ 著
頒価100円
(民医連新聞 第1768号 2022年9月19日)