評議員会の講演から 核兵器の禁止から廃絶へ ピースボート共同代表 核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)国際運営委員 川崎哲さん
第1回評議員会では、ピースボート共同代表で、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の国際運営委員の川崎哲(あきら)さんが、「核兵器の禁止から廃絶へ」と題して講演しました。概要を紹介します。(丸山いぶき記者)
■規範の強化で核廃絶
世界は核兵器の禁止から廃絶へ次のステップに向かっています。
核不拡散条約(NPT)では、米・ロ・英・仏・中5カ国以外は核兵器を持たないかわりに、核保有国は核軍縮を行い、廃絶へ向かう道筋を描きました。しかし、NPTはなかなか進展しません。
このままではいけないという危機感から2010年、核兵器禁止条約をめざす動きが生まれました。発想を逆転し、核兵器を持たない国々が、「核兵器は悪い」という規範を強めることで、持たないことを世界の常識にして、日本など核の傘の下にある依存国や、いずれは核保有国にも条約参加を迫る。非核保有国が主導する廃絶への道筋です。生物兵器、化学兵器、対人地雷、クラスター弾を禁止したのと同様、核兵器を非人道的な兵器として、全面的かつ完全に禁止し、廃絶への道筋を定め、核被害者への援助を定めた条約として、2017年に成立。ささえたのは市民社会の運動でした。
「核兵器の終わりの始まり」とは、規範を強化し、条約を実行し、廃絶へと向かうプロセスの始まりという意味です。規範の強化では各国の自治体や国会議員に働きかけ、保有国・依存国の主要都市を巻き込みます。経済界にもひろげ、核兵器関連投資から引き揚げさせます。対人地雷禁止条約によって地雷製造企業が借り入れできず、事業から撤退した例を見ても、「実効性がない」は誤りです。
■締約国会議で実行へ
世界にいまだ1万3000発ある核兵器を、どうなくしていくのか。それを話し合ったのが今年6月にオーストリア・ウィーンで開かれた核兵器禁止条約第1回締約国会議でした。関連行事「Nuclear Ban Week」(ICAN主催)も開催。各所で被爆者や世界のウラン採掘、核実験被害者が訴え、核兵器は製造、開発から使用まで、あらゆる場面で被害者を生むことを告発しました。
核依存国も5カ国が参加するなか、日本政府は結局、オブザーバー参加しませんでしたが、日本からは多くのNGO、若者が参加。日本のNGOは、被爆者が声をあげて援助を勝ち取ってきた日本の経験・教訓を踏まえ、核被害者が意思決定プロセスの中心になることを原則とする、核被害者援助に関する提言を発表しました。
第1回締約国会議は、宣言「核兵器のない世界への誓約」とウィーン行動計画を採択。第2回締約国会議は来年11月27日からニューヨーク国連本部で、メキシコを議長国に開催します。会期間ワーキンググループ((1)条約の普遍化、(2)被害者援助と環境修復、(3)核廃棄の検証等)と担当国を決定。科学的諮問グループの設置、NPTとの協力に関するファシリテーター担当国、特有の被害を受ける女性の参加促進へ向けジェンダーに関する調整国も決まりました。
■核抑止論の危険
そもそも、核による威嚇と抑止は線引きできるのでしょうか。今年のNPT再検討会議でNGOから発言したウクライナ出身の女性(18歳)は、「抑止と言いながら威嚇するその姿勢によって侵略が行われ、現に被害者を生んでいる」と訴えました。来年のG7広島サミットで、西側諸国はロシアによる核抑止を非難する一方、西側の抑止は「良い抑止」と確認するのでは。そんなことに広島を使われるわけにはいきません。
核抑止論について考えてもらう際、私は4つ問いかけをします。(1)道徳性‥正しいことか? (2)実効性‥本当に機能するのか? 失敗しないか? (3)伝染性‥「我も我も」にならないか? (4)結果責任‥破たんしたらどうするのか?
軍事主義・国家主義の台頭のなかで、「専制主義VS民主主義」のたたかいなどと言われますが、法の支配をいうなら核兵器廃絶こそ求めます。平和に生きる権利は基本的人権です。安全保障のためには軍拡よりも、不戦の誓約と信頼構築(日本国憲法第9条)、国連と国際法による秩序の堅持、外交的解決をめざしましょう。
* * *
日本でできることもたくさんあります。条約の普及や金融機関への働きかけ、第2回締約国会議に参加するよう、政府や国会議員に呼びかけること、NGOとして若い世代や女性リーダーを支援していくことが求められます。
(民医連新聞 第1767号 2022年9月5日)