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民医連新聞

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新連載 私がここにいるワケ 院内技工にこだわり 患者を全力の笑顔に 新潟・かえつ歯科 阿部周さん 歯科技工士

 民医連には、さまざまな職種の職員がいます。他職種の働きに、励まされることも多いのでは。新連載「私がここにいるワケ」。第1回は、歯科技工士の阿部周(しゅう)さん(新潟・かえつ歯科)に聞きました。(丸山いぶき記者)

 阿部さんは、9年前に新設した新潟・かえつ歯科で、オープニングから働く歯科技工士です。
 歯科技工士を志したきっかけは母の再婚相手。当時10歳。自宅にラボ(技工所)を構える歯科技工士の父に憧れました。

■患者のそばで

 7割以上の歯科技工士は、ラボに在籍して、歯科医院から発注を受け、銀歯や入れ歯などの技工物を作成しています。多くの民医連歯科のように、院内に技工室があるところはまれです。阿部さんが高校卒業後に進学した養成校の同級生も、95%が30~100人規模の大手ラボに就職しました。
 他方、阿部さんは「模型ではなく患者さんに向き合いたい」と、院内技工室に就職しました。
 歯科技工物は、患者の口腔(こうくう)内を型取りした石こうの模型上で作成します。ただ、実際の口腔内は軟組織でできており、舌や頬もあるので、模型上で完璧にできたと思った技工物が入らないこともしばしば。「そんなとき、院内技工なら患者さんのすぐ近くで、どんな小さな要望にも応えられる。直接話しもします。生産性を求められるラボとは着眼点もまったく違う。患者さんに寄り添う民医連歯科が、院内技工にこだわる理由だと思います」と阿部さん。
 父も院内技工出身で、「患者さんがゴール」の姿勢を貫く現役です。かえつ歯科で活躍する阿部さんを応援してくれています。

■地域の信頼厚く働きやすい

 かえつ歯科の歯科技工士は2人。阿部さんは主に入れ歯を担当しています。「歯がないと、全力で笑えませんよね。文字通り、患者さんの笑顔のため、人生を明るくするために働いています」。
 同院は新潟民医連初の歯科事業所。民医連歯科のノウハウは、歯科医師、衛生士、技工士がそれぞれ群馬・利根歯科診療所で一定期間勤務して学びました。地域からの信頼が厚く、往診にも力を入れています。「職場もめちゃんこ仲が良いんですよ。ついつい歯科医師とも気安く話してしまうくらい、働きやすい職場。ここは天国です。働く人を守る力も、民医連の力だなと感じます」。

■業界は3K、歯科は後回し?

 阿部さんがそう語るのには、理由がありました。「実は、新卒で就職した別の院内技工室がいわゆる“ブラック”で、地獄を見た」とふり返ります。
 朝8時から翌日午前3時頃まで働き、また朝8時に出勤する毎日。午後5時以降はすべてサービス残業でした。職場では常に頭痛がして、叱られ、「はい」と「すみません」しか言葉を発しなかったといいます。「というか、当時の記憶がないんですよ。心がぶっ壊れていたから」。異常に気づいた両親が「辞めろ」と言ってくれて、1年ほどで退職。その後、母校の恩師が、「君に、とっておきのところがある」と推薦してくれたのが、かえつ歯科でした。
 多少改善したとはいえ、一般的にはいまも「きつい・汚い・危険」と言われる3K労働に加え、「帰れない・厳しい・給料が安い」という新3K労働にもあたる業界。「歯科技工物はフルオーダーメード。銀歯ひとつに6時間、上下総入れ歯には3~4日かかるのに保険点数は低い。技術に報酬が見合わない」と訴えます。なり手も右肩下がりでどんどん減少。阿部さんの母校も今や、定員40人に対して学生は十数人です。金銀パラジウム合金の価格高騰で、導入するほどに歯科医院の赤字になる「逆ザヤ」の問題もあります。
 「このままでいいわけない。虫歯は自然治癒せず、失った永久歯は二度と戻らないのに。当院の患者さんを見ても、口腔崩壊している方は経済的に困窮している方が多い印象を持ちます。社会をより良くする民医連活動に積極的に参加しようと、後輩にも伝えています」。

(民医連新聞 第1767号 2022年9月5日)