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民医連新聞

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いのちとケアが大切にされる社会へ⑤ 地域とつなぐ“お届け隊” 「助けて」を引き出す 地方でのアウトリーチ 鳥取民医連 食料無料市

 コロナ禍、全国で旺盛にとりくまれている食料支援活動。しかし、公共交通機関が乏しいうえ、人目も気になる地方都市では、ただ待っているだけでは利用につながりません。鳥取民医連は、そんな地域の公営住宅団地まで出向き、食料無料市を開き、お届け隊が自宅まで食材を届けています。(丸山いぶき記者)

来場わずか 「だったら、届けよう!」

 鳥取民医連では、2020年春以降、相談機能を高めようととりくんできました。しかし、広報に力を入れても電話相談は数件。他方、20年末から県内4市の公営住宅へ5500枚を配布した困りごとアンケート(回答約270件)では、相談希望が40件超。食費を削っている世帯が半数を占めるなど、深刻な実態が明らかになりました。にもかかわらず、21年メーデーで、鳥取医療生協の駐車場を会場に実施した食料支援では、100セットを準備して来場者は十数人でした。
 県連事務局次長の木下直子さんは、「困っている人がいないわけじゃない。でも、世間体を気にする人が多く、自己責任論も根強い。会場までの移動手段もない。地方でのアウトリーチは試行錯誤が必要だった」とふり返ります。
 「だったら、軽トラで公営住宅に持って行って配り歩くか!」
 県医労連書記長の小林正和さんのそんなひと声から、実行委員会が立ち上がり、公営住宅へ出向く食料無料市のとりくみが始まりました。

物価高騰に生活苦の訴え

 7月30日、JR鳥取駅から北西へ車で約15分の市営住宅、湖山団地で、第3弾の食料無料市を開きました。昨年12月と今年3月(各2カ所)に続く、鳥取市内5カ所目の公営団地開催です。近くに住む村上征男さんの協力で確保できた元スーパーの空き店舗前が会場。「かならず需要があると思っていたから、良かった」と笑顔の村上さん。視線の先には、朝9時半の開始前から、20人以上の住民が列をつくっていました。
 スタッフは約30人。受付を担当した看護学生の田中菜津子さんは、「コロナで収入が減って、物価高騰で生活が苦しいと言う人ばかり。ニュースで聞く問題が、本当にいま起こっているんだと実感した」と話します。ジリジリと照りつける太陽の下、小さな子どもを連れた母親や高齢者、若い男性、外国人の姿もありました。
 会場には米や乾麺、種類豊富な夏野菜などが。前日までに組合員や患者家族、地域の人、JA直売所などからも寄せられ、支援の輪がひろがっています。湖山団地では42世帯が利用し、高齢者にはお届け隊が付き添いました。
 配達希望は事前に電話でも受け付けました。生活保護を利用する独居の男性(77歳)は電話で、「物価も光熱費も上がって生活できない。財布には250円しかない」と訴えました。お届け隊が訪れた自宅は几帳面(きちょうめん)に整理され、冷房は使っていません。この日の鳥取市の最高気温は35・9度でした。

届けるのは食材だけじゃない

 これまでの食料無料市でつながった50世帯や、鹿野温泉病院の診療エリアにもお届け隊を派遣。県連事務局の山中理愛さん(入職3年目)は、3人の独居の高齢者に食材を届けました。「はじめは正直、食材を届けて問題解決につながるのか疑問もあった。でも今は、つながり続けることに意味があると感じる」と山中さん。一軒一軒時間をかけ「最近はどうですか?」と話を聞く山中さんに、「手ぶらでもいいから、また来て」と声をかける女性もいました。
 夏休み中、給食がないことも気がかりで、今回初めて実施地域の小・中学校を訪問、食料無料市のとりくみを案内しました。訪問した組織部の廣田百華さん(保健師)は、「まずは第一歩。地道なお知らせが大事だと感じた」と話します。健康づくりを勧める一方、ひしひしと痛感する格差の壁に限界を感じる廣田さん。「みんなで社会を変えたい。SOSを出せる社会に」と、食料無料市の今後のひろがりに期待を寄せます。
 県連会長の中田幸雄さん(歯科医師)は、「特に地方では、物理的な距離と関係性の両方をつなぐ、リンクワーカーのような役割が重要だと思う。国が国民不在の政治を行うなかでは、身近な自治体を住民の味方にして、“公”を取り戻す運動も、重みを増している。それらの役割を担おうと奮闘する事務局のがんばりが光っている」と話しました。

(民医連新聞 第1766号 2022年8月15日)