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民医連新聞

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汚染水の海洋放出は本当に必要? 〈講演概要〉福島第一原発地質・地下水問題 団体研究グループ/福島大学教授 柴崎 直明さん

 政府は昨年4月、増え続ける東京電力福島第一原発の汚染水(ALPS処理水)を、2023年春から海洋放出すると決めました。これに対して、地質・地下水の専門家でつくる福島第一原発地質・地下水問題団体研究グループ(以下、原発団研)が、注目すべき提案をしています。原発団研の代表、福島大学教授の柴崎直明さんの講演(5月25日、主催‥原発をなくす全国連絡会)の概要を紹介します。(丸山いぶき記者)

 原発団研は、東電や国などが公表する資料をチェックし、地質や地下水の専門的立場から汚染水対策を監視し、問題点を明らかにしてきました。また、福島第一原発の敷地と類似した地質条件を持つ南相馬市などで、地質・地下水の現地調査を行い、汚染水問題の検討・解決に役立ててきました。

■汚染水問題の背景

 福島第一原発の建設へ向けて、1964年に東電が大熊町に調査事務所を設置してから、1号機原子炉設置許可申請まではわずか1年半、そこから許可が出るまで、たったの半年。「原発ありき」ですすんだことがわかります。
 敷地選定理由は、(1)東京から遠いこと、(2)人口稠密(ちゅうみつ)の地域から離れていること(大熊町史編纂委員会、1985年)。地質や地下水条件が良好だから選定されたわけではありません。地質調査は、事故が起こることなど想定していない一般的なもの。地下水調査は、原発の運転に必要な真水があるかという観点で行われました。
 一方、当時の資料でも地下水位は地表から浅いところにあり、建設に携わった東電の土木課長は「最も重要な問題は排水処理(中略)」で「大いに悩まされた」と記しています。

■対策の効果が限定的な理由

 東電や国は原発事故後、敷地の地質や地下水の把握が不十分なまま、汚染水対策を計画・実施しました。しかし、東電や国が言う固い地層だけではなく、未固結砂層と海底地すべり堆積物からなる不安定な箇所もあることが、私たちの研究で判明しています。地質や地下水は、単純化されていた想定よりずっと複雑だったのです。
 そのため、廃炉のためのロードマップは5回も改訂されました。当初は、現在問題になっている地下水流入抑制の視点がなく、海側遮水壁の設置を先行。その後、山側から流れてきた地下水を、原子炉建屋の上流でくみ上げる地下水バイパスや、凍土方式による陸側遮水壁などで、建屋内への地下水の流入を抑制しようとしました。しかし、効果がほとんどないか限定的だったため、今でも毎日平均約130㎥もの汚染水が発生し続けています。
 なぜ、効果が限定的なのか。地下水バイパスの井戸が設置されている場所は、砂層だとする東電の想定とは異なり、水を通しにくい泥質層が多く、ほとんど水が出ていない井戸もあります。また、凍土壁が海底地すべり堆積物下位の泥質層まで届いておらず、凍土壁の下に水を通しやすい層がまだあるから、と考えられます。

■抜本的な流入防止策を

 私たちは、抜本的な地下水流入防止策が必要だと考え、次の提案をしています。当面約10年の中期的対策として、サブドレン(原発建屋周辺の排水井戸)の増強で地下水を管理。そして、100年を見通した長期的対策として、地中連続壁を用いた広域遮水壁と集水井を設置します。
 地盤を掘削しながら、土とセメント系混濁液を混合して、厚さ90cm、深さ35~50mの地中連続壁を構築して、山側からの地下水を遮断。延長約3・7km、施工に数年を要するため、集水井との相乗効果を勘案し、エリア(1)から順次施工します。集水井は内径3・5m、深さ35~50mの井戸です。横方向に水抜きボーリングを行い、山側から地下水を集めます。これにより、効率的に集水できます。
 これらは、沖縄県宮古島での地下ダム工事や、福島県西会津町滝坂の地すべり対策で実績があり、大手ゼネコンでなくてもできます。凍土壁のように維持費に何億円もかかるものでもありません。
 これ以上汚染水を増やさなければ、「処理水」の海洋放出は必要ありません。国や東電は、私たち専門家の提案を真剣に取り上げ、確実に実施してほしいものです。

(民医連新聞 第1765号 2022年8月1日)

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