2022参院選 憲法9条の価値に確信を 市民の大運動で共闘を育てよう
7月21日に開催された、県連事務局長会議の冒頭、一橋大学名誉教授の渡辺治さん(政治学)を招き、「参院選の結果と改憲阻止の闘いに向けて」と題した学習講演を行いました。都内の会場とオンラインで全国から多数の参加があり、45期最大の課題である憲法を守るたたかいについて、学び共有しました。(稲原真一記者)
安倍政権が出発点 9条破壊と新自由主義の再稼働
今度の参院選に向けた岸田自民党のねらいは、“安倍政権の政治”の継承と強化です。その柱は「改憲・9条破壊と軍備増強」と「新自由主義政策の再稼働」の2つですが、ここでは岸田政権が力を入れた改憲・9条破壊のねらいに絞って検討しましょう。
出発点は、安倍政権でした。安倍政権は政府が40年間堅持した憲法9条の解釈を変え、安保法制の強行採決で集団的自衛権の行使を可能としました。続く菅政権のもとで、日米同盟に決定的な転換が起きます。大きな要因は、中国の覇権主義に危機感を持ったアメリカが、対テロ戦争から対中国軍事対決へと世界戦略を転換したことです。その戦略を受け継いだバイデン政権は、NATOや日本との軍事同盟網で、中国に立ち向かう方向に転換しました。
その結果、日本はアメリカの対中国軍事対決の最前線と位置づけられます。バイデン大統領は政権樹立後、真っ先に菅首相と首脳会談を行い、日米共同声明を発表。台湾有事に際し、日本が集団的自衛権を行使し対中国との戦争に武力で加担すること、そのための軍備増強―それが中国を念頭に置いた「敵基地攻撃能力」であり防衛費2倍化です―を約束させました。しかし菅政権はコロナ対策で倒れ、対米約束である改憲と軍拡は岸田政権の宿題となりました。
改憲・軍拡への追い風 衆議院選挙とウクライナ問題
昨年の衆院選で、野党共闘との対決をしのいだ岸田政権は、改憲、大軍拡の加速化に乗り出しました。自民党は議席を減らしましたが、維新の会が大勝。改憲勢力は衆院で3分の2をはるかに越え、共闘から離脱した国民民主党も加えて憲法審査会での改憲案審議に踏み込み、敵基地攻撃能力保有を明記する、国家安全保障戦略の改定にも踏み出したのです。
2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻が、岸田首相の思惑に追い風となりました。“ウクライナの問題は他人事ではない。いつ中国が攻めてくるかわからない”と国民の不安をあおりながら、自民党は4月26日に、防衛関係費2倍化、「反撃能力」と名前を変えた「敵基地攻撃能力」の保有を明記した提言を出しました。しかし、改憲と大軍拡を強行するには、参議院でも改憲勢力3分の2を確保し、大軍拡に国民の「合意」を取りつけねばなりません。これが岸田首相の参院選へ向けてのねらいとなりました。
自公には仕方ない支持 野党は共闘不調で支持失う
今回の参院選では、自民党は、前回衆院選から比例得票率を微減させましたが、改選議席55を63に増やし、議席を倍増させた維新の会、公明、国民と合わせ、改憲4党で3分の2を大幅に上回る、177議席を確保しました。自民党の得票が微減にとどまり、地方の1人区を中心に議席を増やした原因は、アベノミクス以来の地方への湯水のような財政出動と、後でのべる共闘の不調が、地方の“仕方ない支持”を維持した結果です(図1)。
一方の立憲4野党(立憲、共産、社民、れいわ)は、立憲が改選23議席を17に、共産党が6から4に減らした結果、非改選と合わせ56議席へと減らしました。立憲野党、とりわけ立憲民主党の後退の最大の要因は、市民と野党の共闘を背景に続けられてきた、1人区での野党共闘が壊れたことです。
昨年の衆議院選挙後に自民党やマスコミ、連合まで加わって誤った共闘批判が行われ、立憲は共闘路線を「見直し」ました。その結果、32の1人区すべてで成り立っていた共闘が11しか成立せず、その共闘も極めて不十分でした。これが過去2回、11議席、10議席を獲得していた1人区で、共闘野党が3つしか取れず、自民党が28を占めた原因です。
立憲は共闘路線を投げ捨てた結果、野党共闘に政治を変える希望を託すリベラル層や無党派層からの支持を失い、前回衆院選から、大幅に得票率を落としました(図2)。共産党は、共闘が不調に終わったため、共闘に果たしてきた役割への期待が薄れ、共闘の不調による同党支持の市民や活動家の元気喪失も加わって後退しました。
つまり今回の参院選は自民、公明の支持が減ったにもかかわらず、それ以上に共闘不調で立憲野党が支持を落としたことが、与党の「大勝」を生んだと言えます。
野党共闘は力を発揮 改憲発議は止められる
野党共闘を攻撃する人たちの言い分とは逆に、今回も共闘は大きな力を発揮していました。共闘候補は、野党の比例票の合計を大きく上回る得票を得ています。長野では、共闘候補が4党得票の合計より10・28ポイントも上回り、共闘候補が敗北した山梨でも17・02ポイントも上回っているのです。
選挙後の共同通信の世論調査では、野党の候補者一本化を望む人は全体で47%でしたが、立憲各野党の支持層では6割以上と、多くの人が共闘に期待していることがわかります。
また、ウクライナ情勢に動揺した立憲が、軍拡か平和かの問題で正面から政府を批判せず、平和と安全保障の問題で、野党が一致して改憲派と論戦できなかったことも、立憲野党の後退のもう一つの要因でした。
選挙後の岸田政権は、「選挙で合意を得た」として、攻撃用兵器の配備をはじめとした防衛費の2倍化と、改憲の加速化をはかってくることは間違いありません。しかし、改憲派も大きな矛盾を抱えており、市民の運動で改憲発議を止めることができます。
第一に、多くの国民は、改憲・9条破壊には同意していません。選挙直前の朝日新聞の世論調査(7月6日)で、改憲や防衛費の増額には賛成・反対が拮抗しています。岸田首相も選挙ではほとんど憲法のことを訴えませんでした。選挙後の共同通信の「改憲を急ぐべきか?」の問いに、「急ぐべきだ」は37・5%、「急ぐ必要はない」58・4%となっています。
第二に、改憲4党は、肝心の改憲項目では一致できていません。自民や維新が掲げている9条への自衛隊の明記、緊急事態条項に関しても、公明や国民民主は一致していません。
第三に、さらに改憲手続き法により、憲法審査会で野党第一党が尊重される慣行があり、立憲ががんばれば強行は難しくなります。野党第一党を守った立憲をはじめ、立憲4野党を市民の大運動でささえ励ますことができれば、発議を止めることは十分可能です。
戦後77年間 戦争を防いできた憲法9条
改憲阻止のたたかいでは、憲法9条が日本を守ってきたこと、軍事同盟の強化では日本とアジアの平和は守れないことを、真正面から訴えることが求められています。
ウクライナ問題は、NATOとロシアの軍事対決の亢進(こうしん)が、ロシアに侵攻の口実を与えた結果です。同様に日米同盟の強化は、中国に軍拡の口実を与え、アジアに緊張をもたらすだけです。
“9条は無力だ”という声もありますが、そんなことはありません。戦後77年間、日本が一度たりとも直接戦争に加担しなかったのはなぜか。自民党は、自衛隊と日米安保条約があったからと言いますが、違います。軍隊を持ち、他国と軍事同盟を結んだ国はたくさんありますが、日本以外の国は戦争を経験しています。隣国の韓国や台湾、フィリピンなども戦争を経験していますが、日本は一度たりとも加担しませんでした。自衛隊や安保条約があっても、9条により集団的自衛権が行使できなかったため、ベトナム戦争にも湾岸戦争にも派兵できなかったからです。また、日本は尖閣や北方領土、竹島など領土紛争を抱えていますが、他国と違って一度も武力紛争になりませんでした。他国とは領土問題で武力衝突をくり返す中国も、尖閣問題では日本と武力衝突に発展していません。これも9条が自衛隊に先制攻撃を禁止しているためです。
「万が一、日本が攻められたらどうするのか」という声も聞きますが、万が一にも攻められない、平和なアジアをつくることを政府に義務づけているのが9条です。もし日本に「万が一」があるとすれば、二つです。一つは尖閣諸島を巡る中国との領土紛争が軍事衝突になること、もう一つが台湾有事を理由とした米中戦争に巻き込まれることです。
前者は、自衛隊が武力に訴えないこと、日中平和友好条約によって約束した、「あらゆる紛争は武力解決しない」という合意を、あらためて両国が確認することで防げます。後者は、集団的自衛権行使を容認した安保法制を廃棄することで、防ぐことが可能です。私たち次第で、万が一もありません。
これから私たちは、改憲発議を許さない運動と、防衛費2倍化や敵基地攻撃能力の保有を止めるたたかいを、一体にすすめることが必要です。改憲に関心のない人も、防衛費増額や敵基地攻撃兵器には懸念を持っていますから、同時に訴えることが大切です。
憲法審査会を監視し、運動で立憲野党の結束をもう一度促し、共闘を再強化することも必要です。参院選の教訓は、共闘の不調、それにウクライナの教訓、戦争か平和かの問題を争点化できなかったことでした。“戦争への道をひらく改憲は許さない”という、市民の大運動で共闘を再構築しましょう。
市民と野党の共闘の原点は、安保法制に反対する総がかり行動の大衆運動でした。いまこそ、あの時を超える市民の運動で、野党共闘を育てていく以外に、憲法と平和を守る道はありません。
(民医連新聞 第1765号 2022年8月1日)