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民医連新聞

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フォーカス 私たちの実践 意思疎通の改善でQOLも向上 残存機能を生かしたツール作成 山口・宇部協立病院

 宇部協立病院のデイケアでは、四肢機能全廃で発語障害もある利用者が、周囲と円滑にコミュニケーションがとれるように、体の残存機能を生かすツールを作成しました。全日本民医連第15回学術・運動交流集会で、今村直太さん(看護師)が報告しました。

 Aさん、51歳男性。要介護度5です。障害高齢者の日常生活自立度C2()に該当し、自分では寝返りもうてません。
 Aさんは、県外で会社員として働いていた20代のときに、脳梗塞(脳底動脈閉塞症)を発症しました。その後遺症で四肢機能は全廃。発語障害もあり、言葉が聞き取りにくいため、文字盤を使っても意思疎通が難しく、家族の通訳がないと会話が成立しませんでした。
 日中は車いすで生活し、顎でパソコンを操作したり、読書をして過ごしています。終日、父親がつきっきりで介護。その父親もすでに高齢です。

■レーザーポインターを使って

 Aさんは私と同世代。なんとか力になりたいと思い、「誰もがAさんと意思疎通できるようになる方法はないだろうか」と考えた末にたどり着いたのが、レーザーポインターを使うことでした。Aさんは、手足は動かせませんが、頭部は動かせます。そこでレーザーポインターつきハットを作成。文字盤も新しくつくりました。これを頭にかぶって文字盤にレーザーをあてれば、Aさんの言いたいことが一目でわかります。
 難しかったのは、レーザーポインターのスイッチを入れて固定することでした。レーザーポインターは、スイッチを押しているあいだしかつきません。そこで、アルミの短い筒を買ってきて、円すい状に加工し、ハットにとりつけました。この筒の奥にポインターを押しこめば、筒が狭まっているため、スイッチが押されます。これと文字盤を使えば、Aさんが自由に意思表示できるというわけです。

■表情も明るく

 このツールを作成したことで、意思疎通が容易になりました。作成直後、さっそくAさんは「アイデアマンですね」と文字盤を指し示してくれました。表情も明るくなり、デイケアへの参加意欲も向上しました。意思疎通がスムーズになったことで、職員からもオセロやクロスワードを使っての発声訓練などが提案され、レクリエーションの選択肢が増えました。
 後日、自宅でも同様のツールをつくり、民生委員の訪問時などに役立てていると聞きました。
 矢口拓宇氏は著書()で、患者満足度に影響を与える有意な結果が得られる因子を「技術性」や「共感性」だとのべています。意思疎通が改善されたことで、多くの職員が自発的にAさんにかかわるきっかけになりました。Aさんにとってもデイケアが楽しい場所に。在宅生活における生活の質(QOL)向上にもつながったと考えられます。
 デイケアの役割は、在宅生活を送るための生活支援や機能向上のための訓練です。ツール作成で、職員の介入方法も多様になりました。生活に視点をおいたケア提供が、職員の役割認識につながることも再認識しました。

(注)『患者さんがみるみる元気になるリハビリ現場の会話術』(矢口拓宇、株式会社秀和システム2017)

(民医連新聞 第1765号 2022年8月1日)