フォーカス 私たちの実践 無料低額診療事業パンフレットの改訂 言葉の壁を越え縁をつなぐアウトリーチ 神奈川・横浜勤労者福祉協会まちづくり部
コロナ禍やウクライナ情勢で、日本にいる外国人の困難や行政対応の不備が注目されています。特にいのちにかかわる医療費の問題は深刻です。そこで神奈川・横浜勤労者福祉協会では、無料低額診療事業(以下、無低診)をひろめるため、パンフレットの翻訳や普及にとりくみました。松尾ゆかりさん(SW)の報告です。
■地域の課題を共有
当法人の汐田総合病院が立地する横浜市鶴見区は、高齢化率は低いわりに生活保護率が高い、障害者や虐待件数が多い、平均寿命も健康寿命も短い、外国人が多い、などの特徴があります。コロナ禍で影響を受ける住民が多い地域です。
当法人は、日常診療や運動を通じ、従来から行政や社会福祉協議会(以下、社協)、地域包括支援センターなど地域関係機関と信頼関係を築いてきました。2014年に行政も参加して設立した「鶴見区暮らしの相談支援者ネットワーク」など、複数の地域支援団体と共同で事務局を担って主体的に関与しています。他の無低診実施医療機関とも連携し、汐田総合病院で無低診が適用された人は、紹介先の適用基準外でも無低診を利用できるようになっています。
■連携生かし多言語化
コロナ禍では、支援者や行政も日々の相談対応に追われました。しかし、従来のネットワーク会議が休止になっても支援者たちとの情報共有は継続し、この地域に多い外国人が情報難民になっているのでは、と議論しました。
そこで当法人まちづくり部では21年1月ごろから議論を開始し、従来の無低診パンフレットを急ぎ改訂することになりました。鶴見区在住の外国人は、沖縄ルーツのラテン系の人が多く、事情を知るため地域の沖縄県人会の外国人支援者に相談。その人の紹介で、外国人支援活動をしている、鶴見国際交流ラウンジ(公益財団法人)の協力が得られ、担当する区の地域振興課とも協議しました。
改訂では国際交流ラウンジのアドバイスで、無低診の説明文を簡潔にして「やさしい日本語(※)」に修正し、イラストも増やしました。さらに語学に堪能な職員の力を借りて英語、中国語、韓国語に翻訳。国際交流ラウンジの協力でスペイン語、ポルトガル語も追加し、合計6カ国語の入ったパンフレットができあがりました。
パンフレットは21年4月から頒布を開始。これまでは事業所の窓口での配布が中心でしたが、連携を通じて行政の各部署の窓口はもちろん、国際交流ラウンジ、鶴見図書館、沖縄県人会などにも配備しました。社協の窓口では「コロナ禍で郵送のやり取りが多いので、パンフレットを同封します」と言われ、生活保護課でも窓口を中心に活用することに。法人内では各事業所で開催している「食糧支援&なんでも相談会」でも、パンフレットを活用しています。
■土台は日々の関係構築
21年3月~22年1月の汐田総合病院での全額免除の無低診は45件で、そのうち外国人は7件。これは例年同期間の3倍以上です。SDH(健康の社会的決定要因)の視点から、患者、利用者をささえる民医連は、「SOSを出せない人にいかに情報を届けるか」「医療や制度にどうアクセスするか」という方針を持って、計画を立てる必要があります。
今回の新しいパンフレットが、つながりや情報を持たない人に、必要な医療を届ける役に立ってほしいです。しかし、無保険の外国人の医療を無低診でささえることには限界があり、根本的には国や自治体に制度改善を求めていく必要があります。
今回の事例は多くの関係者の協力で実現しました。その土台は、以前から地域の課題をいっしょに把握、共有し、支援者の悩みも出しあえるような、フォーマル、インフォーマルを問わない地域関係機関との連携があったことです。こうした関係を日頃からつくることで、いざという時に新たな活動を形にでき、支援の質や幅の向上につながると考えます。今後もえん(円・縁)のない人たちに、この地域全体で何ができるか考えていきたいです。
※やさしい日本語 災害時などに外国人に必要な情報が届けられるよう、平易な日本語とイラストなどで情報伝達するとりくみ。
(民医連新聞 第1762号 2022年6月20日)