何よりもいのちを大切にする政治の実現を 全日本民医連 柳沢深志副会長に聞く 2022年参議院選挙に向けての民医連の要求
全日本民医連は5月の理事会で、「2022年参議院選挙に向けての民医連の要求」をまとめました。その目的を「要求」をまとめたプロジェクト責任者の全日本民医連副会長・柳沢深志さんに聞きました。(多田重正記者)
改憲を阻止し憲法を生かす社会の実現を
国政選挙に際し、民医連が「要求」を掲げるのは昨年の総選挙に続き、2回目です。
今、かつてない改憲の危機に直面しています。ロシアによるウクライナ侵略を機に、与党や日本維新の会などが、改憲をさかんに強調しています。先の総選挙で、衆議院では改憲発議に必要な3分の2以上を改憲派が占めました。今年7月の参議院選挙で参議院でも改憲派が3分の2以上となれば、改憲が一気にすすむ危険があります。
しかし、いま求められていることは改憲ではなく、憲法の理念を生かした政治や社会の実現だと思います。たとえば「戦争しない」と誓った憲法9条を持つ国として、他国とともにロシアに戦争をやめるように働きかけるなど、平和外交を展開することです。
コロナ禍では公衆衛生や医療・介護体制のもろさが露呈しました。コロナ禍による失業・減収を支援する制度も乏しい。いまこそ憲法25条の生存権を保障する政治が求められています。
改憲を阻止し、幅ひろい人たちと力をあわせ、いのちを大切にする政治に転換したいという気持ちで「要求」をまとめました。
平和外交で世界平和に貢献する日本を
今回の「要求」は、憲法を守り生かすというメッセージを打ち出し、最初に9条にかかわる要求を掲げました。平和は、いのちを守り、自分らしく生きることをささえる医療・介護活動の前提だからです。全日本民医連45期運動方針でも改憲阻止を今期最大の課題としました。この項目では(1)改憲発議をしないこと、(2)戦争する国づくりにつながるあらゆる政策の中止、(3)核兵器廃絶の3つを柱としています(右表)。
岸田政権は、日本の防衛費を現在のGDP(国内総生産)の1%から2%へと倍増しようとしています。2%とは約11兆円で、年間5兆円増やす計算です。消費税増税や社会保障費の削減、国債の発行などが必要となり、国民生活や国家財政の破壊につながります。
しかも自公政権は中国の脅威を強調しています。本紙5月2日号でジャーナリストの伊藤千尋さんが指摘したように、中国の軍事予算は日本の5倍(27兆円)です。中国はアメリカと同規模の予算規模(101兆円)をめざしていますから、中国に対抗すれば、日本の国家予算すべてを防衛費につぎこむことになります。
軍備増強は他国との緊張も高めます。一度戦争になれば、子どもから高齢者まであらゆる人びとが犠牲になります。「要求」では外交努力をつくし、世界平和に貢献する国をめざすことなどを求めています。
「いのちを守ることにお金をつかう国」へ
2番目は、憲法25条です。「いのちを守ることにお金をつかう国」への転換を求めています。
この2年半、私たちは新型コロナウイルスとたたかう一方で、国の無策・愚策ともたたかわなければなりませんでした。社会保障費削減政策の結果、人手が足りない上に、クラスターが起これば医療・介護事業は続けられず、大幅な減収になります。その減収を補てんしてほしいと言っているだけなのに、それもきわめて不十分というのが今の政治です。病床が不足し、新型コロナ感染者の「在宅死」があい次ぐなど、事実上の医療崩壊も起こりました。PCR検査も、いまだに希望者全員が受けられる状況ではありません。
第2回「コロナ禍を起因とした困窮事例調査」では、非正規労働者など、もともと経済的に不安定だった層が解雇されたり、減収となり、さらに困窮している事態が明らかとなりました。
こういう人たちを救うことにこそ、もっとお金をつかうべきではないでしょうか。この項目では、コロナ対策の強化や抜本改善、健康権・受療権の保障、真の「介護の社会化」、生活保護制度・年金制度の拡充などとともに、不公正税制をただし、生まれた財源で社会保障を充実する「いのちを守る財政」への転換を求めています。
個人が尊重される社会 ジェンダー平等を実現しよう
3番目に、個人の尊重(13条)や両性の平等(24条)などにもとづいた要求を掲げました。
コロナ禍の2年半は、ケア労働の主体が女性に偏っている社会事情など、ジェンダー問題が顕在化した時期でもありました。女性の生活困窮も増え、女性の自殺率も上昇しています。この項目ではジェンダー平等の実現を求めています。
ジェンダー平等の基礎となる一人ひとりの経済的自立をささえるためにも、男女の賃金格差の解消、ヤングケアラーの問題はじめ家庭内でケアを担う人への支援強化、子どもや若者の生きる権利の保障、選択的夫婦別姓、包括的な性教育による性暴力根絶などを求めています。これらの課題のとりくみをすすめるために、パリテ(議会や政治団体の代表を男女均等にすること)の導入も盛り込みました。
気候正義の実現 エネルギー政策の転換を
4つ目の柱が気候危機です。2030年までに二酸化炭素などの温室効果ガスを2010年比で45%削減し、2050年までに実質ゼロを達成しないと、COP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)が掲げた「世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1・5度以内におさえる」目標を達成できません。達成できなければ気候危機は打開不能になると警告されています。
日本国憲法は前文で「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和の内に生存する権利を有することを確認する」とのべています。この大前提になるのが環境問題だと思います。
ここで「気候正義」と言っているのは、気候危機の問題にも格差があるからです。温室効果ガスを大量に排出しているのは経済力をもった国々です。一方で食糧不足や海面上昇による国土沈下などの被害をより深刻に受けるのは、温室効果ガスの排出量の少ない、貧しい国々と指摘されています。
日本は、温室効果ガスの削減に後ろ向きなだけでなく、使用済み核燃料の問題も置き去りのまま、ひとたび事故を起こせば計り知れない環境破壊になる原子力発電を推進する政策をとっています。「要求」では2030年までに二酸化炭素の排出量を45%削減すること、原発ゼロ基本法のすみやかな制定、再生可能エネルギーへの転換、災害被災者への支援拡大などを求めています。
リーフレットをもとに思いを出し合って
改憲をすすめる勢力は、憲法を変えるために、世の中で起こっている事態を都合よくゆがめて解釈し、世論を誘導しています。
ロシアのウクライナ侵略後の動きはその最たるものです。戦争反対・国連憲章を守れと言うべきところを、改憲や軍備増強の世論づくりに利用する。コロナ禍でもコロナ病床が不足した事態を、こともあろうに民間病院のせいにして規制強化の口実にする。こういう政治を許さないためにも、国をしばる役割を果たす憲法を守り、生かす政治を実現したい。
職員のみなさんにも、いま社会で起こっている問題をまっすぐに見つめ、こんな政治が実現したらいいなという思いを共同組織のみなさんとともに出し合ってほしい。その学習資材として「要求」のリーフレット・ビラも作成します。ぜひ活用して、民医連外の医療・介護施設や団体、そして参院選候補者や政党とも懇談し、参議院選挙をたたかいましょう。
(民医連新聞 第1761号 2022年6月6日)