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民医連新聞

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いのちとケアが大切にされる社会へ② 現場の声を届 空床保障を勝ち取る 千葉・船橋二和病院

 コロナ禍の長期化で、民医連事業所でもクラスターが発生し、病院の経営にも大きな影響を与えています。千葉・船橋二和病院では、一度は申請を却下された空床補償の補助金を、さまざまな職員のかかわりと運動で勝ち取りました。とりくみを取材しました。(稲原真一記者)

偽陰性からクラスター

 船橋二和病院がコロナ入院対応を開始したのは、第1波の2020年4月でした。第3波が起こった同年10月には重点医療機関になり、12月には保健所の要請で、47床の病棟を20床のコロナ専用病棟に転換して運用を開始。「感染者は原則入院の時期で、あっという間に満床になった」とふり返るのは、コロナ対応にあたっていた、ICN(感染制御実践看護師)で主任の宮下千夏さんです。
 第3波は21年2月中旬に落ち着きましたが、3月21日に職員1人の陽性が判明。翌日に同職員が対応した患者を検査したところ1人が陽性。翌々日には、2つの一般病棟で合わせて5人の陽性者が確認され、保健所とも相談の上でクラスター認定と病棟隔離の対応が決まりました。後に入院時検査では陰性だった患者が、感染源の可能性が高いとわかりました。
 全299床のうち、111床(HCU5床含む)が隔離病棟になり、新規入院の停止や患者の移動制限を行いました。クラスターが完全収束したのは21年5月2日で、職員を含む20人の感染者と4人の死亡者が出ました。
 病棟隔離に伴う入院制限のために、予算は大幅な未達となりました。3月には県にクラスター対応のための空床補償を申請しましたが、「(陽性者を専用病棟に移したので)陽性者をみていない病棟は対象外」と却下されました。

却下されても諦めず

 諦めかけていたところ、同院が所属する千葉勤医協の理事会でこの経過報告を聞いた東京民医連所属の監事が、クラスターの発生した病棟を「みなし重点病棟」と認めさせ、補助金を獲得した事例を紹介。千葉民医連事務局長の加藤久美さんは、「千葉でも交渉で補助金が受けられるかもしれない」と、法人専務と相談しました。つながりのある日本共産党の県議を通じ、県との交渉の場を設定。「現場の実情を訴えてほしい」と、宮下さんと事務次長の加藤伸次さんにも参加を呼びかけました。
 21年6月10日、県議も同席の上で県に補助金の対象と認めるよう訴えました。しかし、県は姿勢を変えず、宮下さんは「保健所と相談し、隔離病棟の濃厚接触者にも陽性者と同等の対応をしてきた。これが(コロナ対応と)認められなければ、私たちのやってきたことはなんだったのか」と涙ながらに訴え、県の担当者が返答に詰まる場面も。県は「持ち帰って厚労省に確認し、対応を検討する」と返答しました。
 しかし、その後も進展は見られず、県に確認の上で直接厚労省にレクチャーを申し込んだところ、12月末に実施が決まりました。レクチャーで厚労省は、個別事例の判断は難しいとしながらも、「対象となる病棟や期間は県の判断で認められる」と回答し、対象となる可能性があることがわかりました。交渉の内容は県議を通じて県の担当者に伝え、1月中旬に県連から厚労省にあらためて問い合わせました。すると、それまでの対応がうそのように「対象と認めるので、実務者レベルで協議を」と県から連絡が。すぐにクラスター対応したすべての期間の空床補償が認められました。

運動が現場はげます

 補助金が出ることを聞いて、「これでボーナスが出るね」と宮下さんは同僚と喜びました。ボーナス額も増え「管理部が現場に還元する姿勢を示してくれたことがうれしかった」と言います。加藤伸次さんは「忙しさで殺伐としていた職員が、お互いに評価したり喜んだりするきっかけになった。この経験を今後につなげていきたい」と言います。
 事務次長の伊藤潤さんは「さまざまな人の協力で、粘り強くたたかった成果。しかし、補助金は当初予算を補填しただけで、いま思えば当たり前のこと。たたかわなければ、職員の生活も守れなかった」とふり返ります。宮下さんも「今後も発熱患者を受け入れる上で補償は当然。積極的に受け入れた病院が、損失を被るだけでは続けていけない」と指摘します。
 とりくみをふり返り、「現場のがんばりをなかったことにしたくなかった」と加藤久美さん。「今回の成功は間違いなく現場の生の声があったから。がんばりに応えて運動でサポートすることが、法人や県連の役割。運動体としての民医連の価値、外に目を向けることの大切さを、一人でも多くの職員に感じてほしい」と語ります。


空床補償

 新型コロナウイルス感染症緊急包括支援事業に含まれる病床確保料のこと。患者受け入れのための即応病床の確保や、入院制限で利用できない空床の費用の補償が目的。重点医療機関以外の病院でも、クラスターなどで実質陽性者受け入れをしている場合は、自治体の判断で適用できると厚労省が通達している。

(民医連新聞 第1760号 2022年5月23日)