深刻化する生活困窮 「コロナ禍を起因とした困窮事例調査」 全日本民医連
全日本民医連は4月18日、都内で記者会見し、第2回「コロナ禍を起因とした困窮事例調査」の結果を公表しました。コロナ禍で困窮する国民の生活実態を明らかにすることなどが目的です。前回の調査以降、民医連の加盟事業所でつかんだ困窮事例(2020年10月~2021年12月)を集計。報告された409事例のうち、経済的困窮をともなう346事例をまとめました(図参照)。浮かび上がってきた実態は。(多田重正記者)
経済的に不安定な層がわずかなささえも失って
「非正規労働者で、もともとギリギリの生活をしていた人がコロナ禍で職を失うなど、さらに生活が苦しくなって相談に来るケースが増えました。無料低額診療事業(以下「無低診」。注参照)も、年金生活の高齢者はもちろん、20~30代など、若い世代の利用も多い」。このように話すのは、北海道・勤医協札幌病院・医療福祉課の畑山有梨奈さん(SW)です。
相談内容も問題が複雑にからみ、さらに困窮する悪循環に陥っている例が少なくありません。同院の報告だけでも、生活費の不足から消費者金融より借金をしている事例が複数。さらに同院からは「新聞奨学生として働きながら、道外の専門学校に通っていた娘が体調不良に。かけ持ちしていたアルバイトもコロナ禍で減収となって、学業を断念し帰郷。その母親もアルバイト収入と遺族年金で生活しているが、体調不良で週2回しか働けない」「タクシー運転手の50代女性。息子は引きこもり。コロナ禍で収入が減り、手取り給与は月8万円」などの事例が寄せられました。
「コロナ禍で、無低診の新規申請の相談内容が、がらりと変わった」と話すのは、畑山さんと同じ部署の藤田幸司さん(SW)。藤田さんは「コロナ禍に入り、外出を自粛したためか、相談が途絶えた時期があった」とふり返ります。「しかしその後から、この1~2年間に貯蓄を削り、売るものも売って、給付金も受け、借りられるお金も借りて、あらゆることをやった末に限界を迎えて相談に来たという人が多い」。
経済的に不安定な層がますます困窮している現象は、全国の数字にも表れています。全事例における職業の内訳を見ると「無職」が47%と最多で前回調査(2020年9月末までの435事例)より18%増加(図3)。一方、非正規労働者も27%と高い率ですが、前回より8%減少しています。
派遣の仕事を解雇され住居を喪失
住まいを失った事例も31件(9%)におよびます(図5)。
元トラック運転手の50代男性は仕事中の事故が原因で解雇されたことがきっかけで、派遣労働者として各地を転々。そして2020年4月、新型コロナの影響で派遣先の工場の生産が止まり、予告なしに解雇されました。派遣会社の寮も追い出され、ネットカフェに泊まりながら求職活動をしましたが不採用が続き、路上生活に。同年12月、食べ物がなくなり、死に場所を探して歩いていたところを警察官に呼び止められ、民医連が準備していた相談会に案内されました。所持金はわずか12円。
この事例を報告したのは、群馬民医連事務局の町田茂さん。同県連が民医連外の生活困窮者支援団体や弁護士、労働組合などとも協力して展開してきた生活相談・支援活動のなかでの事例です。
「派遣労働者は、住み込みや派遣会社の寮を準備して働かせるケースが多い。また、県内でもネットカフェのそばに派遣会社が事務所を構えている例が増えています。派遣労働者は全国を転々とさせられている。青森や福島、愛知から来たという人も」と町田さん。派遣の仕事が住居とセットになっているため、解雇が住居の喪失に直結。町田さんは「90年代以降、派遣労働が拡大させられ、格差が広がった。その矛盾がコロナ禍で噴き出している」と言います。
受診せず我慢して手遅れになった例も
経済的困難からいのちを奪われた事例もあります。
ある60代男性は、一人暮らし。高齢者施設の当直と鶏卵会社でのアルバイトで生計を立てていました。しかし新型コロナの影響で、鶏卵会社を解雇されて収入が減少。2020年10月、歩けなくなるほどの右腹部痛を訴えて受診しました。男性は、数カ月前から痛みを感じていましたが、「医療費が払えない」不安から医療機関を受診せず、痛み止めを内服して我慢していました。検査の結果、胃がん、転移性肝がんで緊急入院。手術は難しく、翌年3月に亡くなりました。
生活をささえる改革が急務
そのほかにも「夫の暴力が原因で離婚したシングルマザー。ダブルワークで生活していたが、コロナ禍で仕事をすべて失う。飛び降り自殺をしようとしていたところに、帰りが遅いことを心配した息子からの携帯電話への着信で思いとどまり、チラシを手に生活相談へ」(40代女性)、「新型コロナに罹患したタクシー運転手。めまいや頭痛などの後遺症で働けなくなり、退職。家賃も払えず、住居を強制退去に」(20代男性)などの事例がありました。
これらの困難を解決するために、求められていることは――。全日本民医連事務局次長の山本淑子さんは、「経済的に困窮している人が、ためらわずに生活保護を利用できるようにすることが急務」と強調します。
「全国からは、生活保護の窓口で、車を所有していたり、持ち家のある人は生活保護を受けられないなどと説明して、生活保護を受給させない『水際作戦』が横行していることが報告されています。しかしコロナ禍では、生活支援団体の訴えや国民世論におされる形で、そのような対応をしないように『例外』を厚生労働省は通知しました。この例外を、市民や行政に徹底することが必要です」。
藤田さんも「車も処分し、生命保険も解約するなど、『何も持たない』状態にならないと生活保護が受けられない」とする行政の対応に苦慮しています。さらに「『生活保護だけは受けたくない。なんとか体調不良を治して働き、生活を立て直したい。だから無低診の相談に来たんだ』という人が多い」と藤田さん。「しかし無低診は、生活そのものをささえるわけではありません。生活保護以外にも生活をささえる給付金制度があれば」と話します。
経済的困難層は、国民健康保険の対象であることが多く、国保の高い保険料や一部負担金の減免制度の拡充も必要。また、新型コロナの治療に際し、国保における例外として、事業主以外という限定付きながらも傷病手当が導入されたことについて、山本さんは言及。「国保の傷病手当は、新型コロナの後遺症による休業に対しては出ません。罹患後、後遺症で働けなくなった事例が報告されていることからも、国として後遺症の実態をつかみ、ささえる制度改革が求められます」と訴えます。
全日本民医連は、住居を失った人に国が住まいを確保することのほか、コロナ禍で困窮する外国人に対し、在留資格にかかわらず医療を受ける権利を国・自治体が保障することも求めています。
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民医連職員に求められることは、との問いに山本さんは、「今回の調査でも、小児科外来でお母さんが『眠れない』と言ったので話を聞くと、家賃が払えず、強制退去を迫られていることがわかった事例などが寄せられています。中断患者への声かけや、診療現場でのちょっとした気づきを大切にする実践など、事例を掘り起こす活動を」と答えます。
町田さんは困難事例をつかむために外に出る「アウトリーチ」の重要性を強調。「生活で困っている人に何ができるのか悩む前に、実際に相談支援活動に足を踏み出すことで、どんなことができ、どんなことを学べばいいのか、見えてくる課題もある。まず行動し、知恵を出し合うことが求められているのではないでしょうか」と話しました。
(注)社会福祉法などにもとづき、無収入・低所得者に無料または低額な料金で診療を行う事業
(民医連新聞 第1760号 2022年5月23日)