フォーカス 私たちの実践 戦火のひろがりに心を痛めている子どもたちへ 情報摂取と子どもの発達長野・松本協立病院小児科
2月下旬からロシアのウクライナ侵攻に関する報道が日々続き、戦地や市街地での目を覆いたくなる惨状も報じられています。そうした報道にくり返し触れることでストレスを感じ、不安が強まっている子どもたちがいます。長野・松本協立病院では、ある事例をきっかけに、小児科医師から文書を発信し、注意を呼びかけています。同院の酒井慧医師に聞きました。(丸山いぶき記者)
当院では3月15日から、ホームページに「戦火のひろがりによって心を痛めているお子様へ接する保護者様へ」と題する文書(以下、文書)を掲載しています。並行して小児科外来にも掲示し、自由に持ち帰ることができるように設置し、気になる子どもと保護者には診察時に手渡しています。
きっかけは、発達障害を抱えるある小児の事例でした。
■安定剤を過剰摂取
家庭環境や自身の性自認などの困難を抱え、発達特性もあわせ持つ中学生のAさんは、3月初旬の定期受診の際、ロシアによるウクライナ侵攻が始まってからの不安を訴えました。保護者も、Aさんが毎日ウクライナのことを聞いてくることに困惑。その日はAさんの不安を聞き、メディアとの付き合い方の話をしました。
しかし翌々日、Aさんは処方されていた精神安定剤を過剰に摂取。幸い身体への影響は小さかったものの、ウクライナ情勢が気になって仕方がなく、SNS情報から逃れられない様子でした。
保護者の心配の声は、ほかの外来や職員からも聞かれました。
■情報との付き合い方
子どもは言葉での理解が未熟なため、映像や画像の衝撃が大きく影響を受けやすいと言われます。2011年の東日本大震災でも、衝撃的な映像を視聴することの影響が各方面から指摘され、メディア側も伝え方を議論しています。
事実を知ることは大切です。しかし同時に、情報摂取量の調整が苦手な子どもには、大人の助けが必要です。際限のないウクライナ情報への暴露の危険性を科学的に証明し、保護者へわかりやすく伝えることも、いま、民医連の小児科に求められていると感じます。
私は現在、主に小児発達診療を担当しています。発達特性のある子どもの多くは刺激の強い情報に影響されやすく、探求せずにいられず、特にSNSと相性が悪く、苦労する子が多いと感じます。
言葉にできない苦しみは、身体症状として現れます。ストレスサインの現れ方は、年齢ごとに差があるわけではなく、一人ひとり異なります。「戦争についてどう答えれば?」―。保護者の多くは「正解」を求めがちですが、正解はありません。まずは話を「聞く」、余力があれば「いっしょに考える」。信頼できる第三者に頼ることも有効です。
文書は今後、共同組織の会報にも掲載予定。父母だけでなく、周りの大人みんなでささえ、その子本来の力の発揮をめざします。
■民医連の「現実的な手助け」
国際NGOセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、「専門家がすすめる、子どもと戦争について話すときの5つのポイント」を公表(同団体ホームページ)。その一つ「現実的な手助け」で、戦争の影響下にある人を「助けたい」という思いを応援し、解決の一端を担っていると感じられるよう、為政者への手紙や平和の絵をかくことをすすめています。
当院では以前から、有志9条の会が、天使の羽をかたどり平和のメッセージを集めるとりくみをしています。その羽は小児科外来のガラス面に貼られ、この間、子どもたちもメッセージを寄せています。運動体でもある民医連だからこそできる「現実的な手助け」があると感じています。
同院ホームページの文書(抜粋)
●メディアとの付き合い方
SNSは衝撃的な映像を含むさまざまな情報が無加工・無配慮のまま拡散され、強いストレスを受ける原因になります。インターネットの使用ルールを確認しましょう。
●子どものストレスサイン
行動の変化:学校へ行きたがらない、意欲が乏しい、攻撃的、親のそばを離れないなど
からだの反応:食欲がない(or過食)、痛みやかゆみの訴え、不眠、おねしょ、チックなど
表情や会話:ぼんやりしている、些細なことで泣く、喜怒哀楽が激しい、笑わないなど
●ストレスサインだと思ったら
まずは話を聞いてみましょう。解決しなくても気持ちを整理して楽になり、聞いてくれる人がいる安心感が得られるかも。話してくれなくても「いつでも聞く」とメッセージを。
改善しない場合、信頼できる第三者に相談しましょう。当院外来でも相談ください。
●戦争について聞かれたら
いっしょに向き合い正しく理解することで不安を軽減できるかも。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン【5つのポイント】も参考に。
(民医連新聞 第1759号 2022年5月2日)