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民医連新聞

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新連載 いのちとケアが大切にされる社会へ① コロナ禍で奮闘 診療所が「最後の砦」に 埼玉・さいわい診療所

 2年以上つづくコロナ禍は、いのちより経済を優先する政治の矛盾を浮き彫りにしました。外出自粛や休園・休校などで、介護・家事・育児などのケアが女性に偏っている問題もクローズアップされています。民医連は、コロナ禍でいのちを守る実践を重ねるとともに、いのちを守ることまで「自己責任」にされる社会のあり方を「ケアの倫理」で転換し、「いのち優先の社会」を実現しようと提起しています。そんな民医連のとりくみを紹介する連載「いのちとケアが大切にされる社会へ」。第1回は埼玉・さいわい診療所のコロナ禍における実践。所長の山田歩美さんに聞きました。(多田重正記者)

1日中電話が鳴る

 山田さんは昨年8月、同診療所(川口市)の所長に。就任後から今日までを「怒濤(どとう)の日々だった」とふり返ります。
 8月は、新型コロナウイルスの感染拡大の第5波の真っただ中。当時、周辺では発熱外来を行っている医療機関が少なく、診療所の電話は連日、朝から1日中なりっぱなし。「受話器を置いた途端、次の電話がかかってくる」ほどで、事務が1人専任で対応し、多い日は1日約40件の相談に応じました。
 一般患者と発熱外来患者の動線を分けるため、栄養相談室を隔離室に。それだけではスペースが足りず、「暑いさなか、診療所の外に椅子をおき、発熱外来の患者さんに待ってもらうしかなかった」と山田さん。午前、午後、夜間の診療時間帯の最後に発熱外来患者を診るなどして、対応しました。

電話診療で薬を処方

 さらに第5波は、第4波までと様相が異なっていました。第4波までは検査を行い、陽性とわかれば保健所に報告して任せる例がほとんど。しかし第5波では発症後、1週間ほどして重症化する事例が増えました。一方で爆発的な感染拡大で入院・療養施設は不足。症状が改善しない患者が保健所に相談しても「『診断してもらった医療機関に相談を』と言われた」などの訴えも多く、診療所がフォローせざるを得ない例があい次ぎました。
 ある50代男性は、基礎疾患はないものの、血中酸素濃度(SpO2)は91~94%。呼吸困難がありましたが、施設療養がかなわず、診療所の看護師が訪問して腹臥位(ふくがい)(顔を横に向けてうつぶせに)を指導。山田さんが電話で症状を聞き、ステロイドを処方しました。
 ほかにもSpO2が90%で、在宅酸素を導入し、食材も自宅に届けた一人暮らしの20代男性や、咳が止まらないため電話再診で経過を追い、リン酸コデイン散を投与した20代シングルマザーの例などを経験しましたが、いずれも初診。診療所が「最後の砦」としての役割を果たしました。
 看護師が感染患者宅を訪問することについては、職員のなかにも反対意見がありましたが、山田さんは「入院施設が不足した根本原因は政治の失敗だが、困っている患者が現れた以上、対応するしかない」と訴え、力を尽くしました。

拘束当番を輪番に

 さらに山田さんには所長就任にあたり気がかりなことがありました。診療所はどこも常勤医師は1人で、その医師が365日24時間、往診患者の重症化や看取りに対応。山田さんの子どもは当時2歳と6歳でしたが、要請があれば深夜・早朝でも駆けつけなければなりません。そこで山田さんは、市内にある同じ医療生協さいたまの川口診療所の所長に相談。平日の拘束当番を一週間ごとに替わってほしいと話し、快諾を得ました。
 週末や祝日は、常勤医師1人体制の負荷軽減や学会出席の保障などを目的に、4つの診療所で拘束当番をまわすしくみがありました。しかし、どこの診療所長も遠慮してあまり利用していませんでした。山田さんはこのしくみを再確認し、動かすよう働きかけました。
 輪番のため、早朝・夜間の呼び出しがなくなったわけではありません。でもそこは、家族や職場の理解があってこそ。早朝・深夜に呼び出されたときは、夫に子どもを託します。
 「下の子どもが熱を出したときは、夫が職場の病児保育所に連れていく」と山田さん。夫も同法人の病院職員で医師の働き方に理解があるので助かります。近くに住む山田さんの母にもささえられています。
 診療所は1月に新築移転したばかり。山田さんは「家庭医を育てる診療所として『こういうところで地域医療を担いたい』と思ってもらえる医師研修をしたい。患者さんが風邪でも気軽に相談に立ち寄れるような、安心できる診療所にするために、職員の育成をすすめたい」と話してくれました。

(民医連新聞 第1758号 2022年4月18日)